「今一番大切なことは、みんなが一人一人どうすべきかを考えて、一致団結してこの危機を乗り越えることだと思うんだ 批判や怒りや疑いじゃなくてさ、不要な外出を控える、自分や家族を守る、他人を思いやる、医療を守る…それしか新型コロナに勝つ方法はない」
歌手のスガシカオさんが4月7日に投稿したこの内容に対して、「自粛したくてもできない人もいる」「自己責任論の言い換えだ」などの批判が寄せられた。結果的に、スガシカオさんはツイートを削除し、謝罪した。

コロナで炎上リスクが上昇
炎上防止コンサルティングなどを手掛けるシエンプレ(東京・新宿)のWEBソリューション事業部シニアマネージャーの桑江令氏は、「一致団結して危機を乗り越えようというメッセージは、東日本大震災のときならまず批判されることはなかった。社会に分断が広がっている」と分析する。コロナ禍で社会が不寛容化し「謝罪圧力」が高まっている今、こうした内容でも怒りを買いかねない。(関連記事:新型コロナで同調圧力が上昇? 一触即発で「謝罪」の窮地に)
炎上の地雷は、なぜ広がっているのか。いくつか要因を考えてみよう。
1つの要因は、コロナ禍の活動自粛によってSNSの利用時間が増え、検索行為や情報の受信・発信の量そのものが増加したことだ。アライドアーキテクツの調査によると、コロナ禍の外出自粛によってSNSの利用時間が「増えた」とする人は34.5%にのぼる。
こうしたSNS利用の増大は、コロナ禍でのストレスと相まって炎上リスクを高めている。デジタル・クライシス総合研究所の調査によれば、感染拡大の第1波が襲っていた今年4月の炎上発生件数は前年同月比の3.4倍に増加した。

「社会不安の高まりと炎上件数の増加には関係がある」と山口氏は指摘する。天災などが起きると、ささいな言動を取り上げて「不謹慎」だと過剰にバッシングする中傷行為が多くなる。過去、世の中に炎上が増えた「山」があったのは、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震。そして今年もそれらに匹敵する山となっている。
AIでも炎上防止は難しい
そもそも、ここ数年で世間の「怒りの目線」が厳しくなっていたという声もある。「中の人」として企業の公式ツイッター運用を8年ほど続けてきた食品メーカーの担当者は、「何をきっかけにどこで燃えるのか分からない。事前に対策したり準備したりすることは難しい」と話す。
AI(人工知能)を活用し、ネット炎上リスクを予見するサービスを開発中のエルテス(東京・千代田)の江島周平マーケティング部長も、「最近の炎上は予想もしない角度から飛びつかれる。『なぜこれが起きるのか(炎上するのか)』という可能性が無限にある」と言う。
AIが炎上リスクを検知するためには、「炎上につながりそうだ」と判断するための教師データを作り、AIに教えなければならない。ところが、ここ最近の炎上はメカニズムが複雑化しているため、リスクかどうかを判断する教師データの作成が難しくなっているという。
炎上が複雑化する背景にはSNSの特性も関係している。その1つが「エコーチェンバー」と呼ばれる現象だ。閉鎖的なコミュニティーで同じような意見が飛び交う環境に身を置くと、特定の意見が強まり過激化するという。自分と似た価値観の人を選んでつながることができるSNSは、考えの固定化が起きやすい。
さらに、人々にとってSNSが身近なものになるにつれ、自分の考えや主張を相手に直接発信することが当たり前になった。これ自体が悪いわけではない。ただ、先鋭化した意見がそのまま相手にぶつけられるようになったため、今までにない予想外の炎上が起こるようになった。
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