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社員にコロナ感染者が出ると謝罪する企業

 こういった環境の変化は、企業にとっても同様だ。常に市民の監視にさらされる事業者側は、相手の気分を害することのないように行動する必要がある。落ち度があってもなくても、コロナ対応の甘さを糾弾されれば、当然、謝らなければならない。

 「地域住民の皆様、関係者の皆様に多大なご心配をおかけすることを心よりお詫び申し上げます」。トヨタ自動車は新型コロナに感染した従業員のうち、周囲と接触があった約70人の職場や年齢・性別、最終出社日などをHP上に記している。

 「社内外の注意喚起を促すため」(トヨタ)ということだが、こうした情報開示は企業にとっての命綱となる。事前に対処を徹底しておかなければ、どこから火の粉が上がり「隠そうとした」と糾弾されるか分からないからだ。

 コロナ禍において、企業はこれまで以上に世間の意識に対して神経を尖らせるようになった。ただ、企業と世間の認識の乖離(かいり)は、どんな問題にせよ常に「炎上」の発火点となる。だからこそ、企業は戦々恐々とし、準備を怠るまいと必死だ。

 11月下旬、某金融グループの3社の社長から広報部員まで総勢数十人が、不祥事が起きたことを想定した訓練を実施した。各社について「顧客情報の流出」「協力会社と連携した架空請求」「インサイダー取引」という3つの仮想シナリオを想定し、それぞれの会社が社会部出身のフリーの記者たちからの突き上げに向き合った。

 電話対応に加えて、コロナ禍を踏まえてリアルとオンラインとで謝罪会見を開催。記者会見では、登壇者が原稿を棒読みしたり、「企業秘密ですのでお答えできません」などと発言したりして、記者たちから「情報を出し渋っているのか」と怒りを買う一幕もあった。

 「あなたたちが被害者ならば企業に何を求めるかを考えてください。そうすれば、答え方も頭の下げ方も変わってくるでしょう」。訓練を実施した危機管理コンサルティング会社のアズソリューションズ(横浜市)の佐々木政幸社長は、そう注意した。「自分たちの認識がいかに甘かったか」――。後日、会社側から佐々木氏にそんな感想が寄せられたという。

 東芝などの不正会計や、建設業界や自動車業界などで起きたデータ改ざん、国外逃亡へと発展した日産自動車のカルロス・ゴーン会長(当時)が金融商品取引法違反の容疑で逮捕された事件……。ここ数年、世間を驚かせる大型不祥事とそれに伴う謝罪が数多く起きてきた。大企業の経営トップが深々と頭を下げるシーンが記憶に残っている読者も少なくないだろう。

 それに比べると今年は一見、謝罪案件が少なかったようにも映る。ただ、冗談のつもりが コロナ禍では不謹慎とされたり、ジェンダーなど社会問題への意識の高まりに配慮を欠いたりして、多くの企業が謝罪に追い込まれている。ツイッターなど SNS 上では、企業の公式アカウントの発信に次々と「ケチ」がつく。タイツ大手のアツギはイラストが「性的」だと批判され、靴下メーカーのタビオは「嫁」とツイートしただけで謝らざるをえなくなった。

 同調圧力の高まりは、そのまま「謝罪圧力」となって企業や個人を襲う。まるで一触即発 の状況だが、多くの場合、「分」は指摘する側にある。恐ろしいのは「バッシングによって(快楽物質である)ドーパミンが脳内に出るため、分かりやすい悪者を見つけて叩く」(山口真一国際大学准教授)という行動が常態化することだ。もはや、時代は「不寛容社会」に突入している。

 本連載「謝罪の流儀2020」では、今年の謝罪案件を振り返りながら、「謝罪の本質とは何か」について考えていくとともに、企業と個人が不寛容な社会を生き抜くための方策を探る。以下のようなラインアップを予定している。

「謝罪の流儀2020」 今後のラインアップ(予定、タイトルは仮)

+新型コロナで同調圧力が上昇? 一触即発で「謝罪」の窮地に
+コロナからジェンダーまで、広がる地雷をなぜ踏むのか
+「謝るのは日本だけ」は誤解、世界でも重視され始めた「謝罪」
+モーリシャス原油流出事故で考えるSDGs時代の謝り方
+人はなぜ土下座するのか、謝罪の本質を読み解く
+大胆予想!2021年、日本は「大謝罪時代」に突入する?

 お見逃しのないよう、ぜひ連載のフォローをお願いします。テーマや順序は変更になる場合があります。あらかじめご了承ください。

【アンケートご協力のお願い】

 日経ビジネスは2015年から毎年12月に、不祥事を起こした企業などがどのような謝罪をしているかを検証する「謝罪の流儀」という特集を掲載してきました。今年も「謝罪の流儀2020」(仮)を掲載する予定です。つきましては読者の皆さまに、記憶に残る謝罪や、謝罪に関する意識についてアンケートを実施します。アンケート結果は日経ビジネス電子版や雑誌の日経ビジネスに掲載する予定です。

>>アンケートに回答する(回答期限12月11日)

 アンケートではまず、2015年から5年間の特集表紙に掲載した「謝罪カレンダー」の中の主な謝罪事例(59事例)から、読者の皆さんの記憶に特に残っているものを選んでいただきます。過去の謝罪カレンダーは以下のリンクからご確認いただけます。

 ぜひ、ご協力をお願いします。

■過去5年の謝罪カレンダー
2019:謝罪の流儀 令和元年 平成までの謝り方は通用しない
2018:定石破りの日産 常識外れの日大
2017:日産、神鋼は何を間違えたのか
2016:一夜明ければ社会の敵に
2015:炎上の旭化成、火消しのトヨタ

>>アンケートに回答する(回答期限12月11日)