コロナ禍で働き方が変わった人は多い。これに伴い、自宅に対するニーズも変わってきた。そこで流されるニュースはその名の通り、最近の「新たな」変化が取り上げられやすい。変化の一例を見ると視聴者はトレンドがあるように思いがちだが、トレンドがあるなら統計に表れることになる。しかし、事例と統計は意外に逆行していることもある。その見極めをしないと、間違った選択をして一生取り返しの付かないミスを犯すことになりかねない。今回は、人は郊外に移動しているかを検証してみよう。
「郊外に移住する人が増えた」はフェイクニュースか?
コロナ禍でリモートワークが働き方のトレンドになった。リモートワークする場所は、自宅が多いということで、自宅の働く環境が整わない人も生まれた。自粛期間を含め、家に長くいることで、自宅の重要性が増し、より居住性と機能性のある家を検討する動きが盛んになったことは事実だ。これに加えて、会社に通勤する回数が減った。ここで出てくるニュースは、「郊外に引っ越す人が出てきた」という話だ。実際、私もテレビで転居者へのインタビューを見たが、実態はどうなのだろうか?
先日、私が行ったセミナーで事前質問を受けた中に、以下のものがあった。
「本当にコロナを機に田舎に移住している人はいますか? 私の周りにはいません。
私はコロナだろうがなかろうが、一度都会の便利さを知ってしまったら
田舎には戻れません。
高齢者ならなおさら移住なんて検討しないと思います。
マスコミにあおられている情報があれば知りたいです」
まず、マスコミと接触機会の多い私のところには、こうした郊外への転居者を探してもなかなか見つからないという嘆きが聞こえてきている。マスメディアのニュースは企画段階でおおむね結論が決められている。今回の場合は、「郊外に引っ越しする人が増えたはずだ!」という結論を基に、その事例を探せという話になる。この結論に至る前に専門家に確認してくれればいいのだが、既に決まっている結論のために、「コメントをもらえないか」と事後で取材が来るのがいつものパターンである。こちらとしては、「またか!」程度の話で取り合えないことも多い。
検証すると不自然な結論に気づく
人の動きを統計的に押さえるには、住民基本台帳人口移動報告で見るのがいい。都市部における人の動きの多くは地方から都市部への転入が主流だが、その意味ではコロナ感染者の絶対数が多い東京に来る人が減る傾向は明確に見られる。しかし、ここで移動する人は20代の単身者が大多数を占めることに注目したい。
実際、緊急事態宣言が4月初旬に出て、約2カ月の自粛期間があった後、5カ月の間の不動産の取引量は例年より少ない。単身者ならともかく、夫婦やファミリーとなったら、家族一人ひとりの事情(例:職場・学校・塾・地域コミュニティー等)があるし、引っ越すにしても時期は年度末にする人が多い。それでもニュースが探しているのは明らかにファミリー世帯である。
住宅供給側から見ても、郊外に行く傾向は見られない。新築分譲戸建てが売れていることは事実だが、物件の立地が変わったわけではない。なぜなら、コロナ禍で売っていたものはコロナ前に仕入れた立地であり、立地の変化が起こるとしてもこれからだ。それに、私たちは新築分譲戸建ての売れ行きを販売中物件の広告落ち(広告に出なくなること)でウオッチしているが、郊外もよく売れているが価格の高い都心寄りも同じように売れている。
マンションを検討していた人が戸建てを検討し始めた調査結果がある。マンション価格高騰の中、リモートワークでの「もう1部屋需要」が生まれ、ここ数年ほぼ横ばいの戸建て価格に飛びついた格好で説明がつく。いずれにしても、持ち家を購入する人は今住んでいる場所の近くで買うのが通常であり、ファミリー世帯にとっては立地を急に変えることなどできないものだ。
不動産では立地が最も重要になる
最近、持ち家購入検討者からよく受ける質問が以下の2つだ。
「これから戸建て需要が増え、値上がりするのですか?」
「郊外に行くなら、どこがいいですか?」
私はマンションが値下がりする際の法則を見つけて、その著書がベストセラーになった。住宅ローンの返済は着実に進むので、値下がりしにくいマンションは売却時に現金資産が増えることになる。例えば、ローン返済が3割進んだ際に物件売却したら1割しか下がっていなければ、2割の現金が増えたことになる。こうした含み益は売却によって実現益になるのだ。そこで、本のタイトルは『マンションは10年で買い替えなさい』となった。これを実行した人は、その後の相場の値上がりもあるが、99%もうかっているのが現実だ。
その法則の最も重要なことは、値下がりしにくさはほぼ立地で決まるということだ。都心で、駅近であれば資産性は高く、過去の価格変動データから行政区ごと・駅ごとに資産性は判明している。駅近の理解の仕方でよく説明するのは、1分と2分では2倍ではなく4倍ということだ。距離は2倍でも面積では4倍だから、競合となる物件が2乗した数だけ増えてしまう。できることならば、駅直結で雨にぬれないのが最も良くて、こうした物件は新築分譲価格を下回ったことが一度もないのだ。
職住近接のトレンドが変わらない理由
リモートワークがどんなに増えても職住近接のトレンドが変わることはない。なぜなら、職住近接になる最大の理由は通勤日数ではなく、世帯人員だからだ。都区部の世帯人員は既に2人を切っており、戦後一貫して下がってきている。今後も下がり続けるだろう。単身世帯が最も多く、世帯が小さくなると、通勤時間を短くしたいというニーズが強くなる。同居人に意向を尋ねる必要がないからだ。また、居住地は職場だけでなく、休日にどこに行くか、誰と会うかで引っ張られる。それは往々にして繁華街であり、それは職場に近いところにある。郊外や地方に引っ越したら、仕事ができたとしても友達に会うことも買い物に行くことも不便になるだけだ。
オフィス床面積は都心3区(丸の内などがある千代田区、銀座がある中央区、六本木がある港区)に集中しており、51%を占める。過半数だ。都心5区と言って、渋谷駅のある渋谷区と西新宿がある新宿区を加えると、その割合は全体の3分の2になる。現在、ビルの建て替えや駅前再開発などが多いが、ほぼすべて建て替えになるので、この立地の偏り傾向は今後も変わらない。
こうしたオンとオフのライフスタイルをしている中で、郊外に引っ越すのは得策ではない。生活が不便になるだけでなく、住宅ローンの返済以上に資産価値が下がるので、二度と引っ越しができなくなる可能性が高くなるだけだ。フェイクニュースに惑わされて、引っ越したら最後、コロナ収束後は通勤地獄にさいなまれ、友達にも会えない世捨て人のような生活をすることになりかねない。
この記事はシリーズ「コロナ収束後を見通した逆張りご自宅戦略」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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