国内で開発されたブランド果実などの種や苗木の海外への流出を防ぐ仕組みを強化した改正種苗法が12月2日の参院本会議で可決、成立した。一部の規定を除き、2021年4月に施行される。政府は、通常国会での成立を目指していたが、新型コロナウイルスへの対応などで十分な審議時間が取れなかったこともあり継続審議に。一部からは法改正への懸念の声も出ていた。そもそも種苗法とはどういう法律なのか、どういった改正が行われるのか、知っておくべき10項目をまとめた。

Q1:種苗法って何?
Q2:どのように開発者を保護している?
Q3:今回の改正で何が変わる?
Q4:個人が種や果実を買って、海外に持ち出すこともできなくなる?
Q5:法改正の背景は
Q6:他に海外に流出した登録品種は?
Q7:そもそも、新品種の登録はどれくらい行われている?
Q8:法改正でどんな効果が期待されている?
Q9:法改正には懸念の声もあった。
Q10:開発者の権利が守られることで、海外の多国籍企業による種子の支配が進むとの懸念もある。

Q1:種苗法って何?

 農作物などの種苗の開発者の権利を守る法律。今までにない新たな品種を育成した開発者は種苗法に基づき品種登録を受けることができる。登録品種は最長25年間(果樹などは最長30年間)、知的財産権の1つである「育成者権」が保護され、開発者は種苗を独占的に販売する権利が認められる。農家は開発者に対価を支払うことで新品種の栽培や出荷ができる。

Q2:どのように開発者を保護している?

 民事的には、育成者権が侵害された種苗や収穫物の流通の差し止めや、育成者権の侵害によって発生した損害賠償の請求が可能。また、故意犯の場合、10年以下の懲役や1000万円以下の罰金(法人の場合は3億円以下)などの刑事罰を受ける可能性もある。

Q3:今回の改正で何が変わる?

 種苗の開発者が種苗の輸出先国や栽培する地域を指定できるようになる。開発者は国内のみ、もしくは特定の都道府県のみに栽培地を限定することができ、違反行為に対しては差し止め請求ができる。罰則の対象にもなる。これまでは開発者が種苗業者や農業者に種苗を正規に販売した場合、海外への持ち出しが制限できなかった。

Q4:個人が種や果実を買って、海外に持ち出すこともできなくなる?

 農林水産省によると、開発者が品種登録の出願時に栽培地を限定していれば、個人であっても栽培目的で種や苗、収穫物などを持ち出すことはできなくなる。ただ、持ち出す果実そのものを食べる目的であれば違反にはならないという。

Q5:法改正の背景は

 近年、登録品種が海外に流出し、その後産地化する事例が発生しているため。代表的なのが高級ブドウの「シャインマスカット」。歯ごたえがある大粒の果実が人気で、もともとは国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が2006年に品種登録したものだが、中国や韓国へ流出し、無断で栽培されていることが確認されている。シャインマスカットは日本から東南アジアなどへ輸出が行われているが、日本産に比べて安価な中韓産が出回り輸出拡大の阻害要因に。現行法では登録品種が正規に販売された後の海外への持ち出しは違法ではないため、政府は規制の導入が必要と判断した。

(写真:Shutterstock)
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Q6:他に海外に流出した登録品種は?

 主なものとしてはイチゴの「レッドパール」や「章姫」、「紅ほっぺ」、サクランボの「紅秀峰」など現在では保護期間が満了している品種も含めて中国や韓国などへの流出が確認されてきた。食用の品種だけでなく、イグサの「ひのみどり」が中国で栽培され、日本に製品が輸入される事案もあった。

 最近ではサツマイモの「紅はるか」が韓国で無断栽培され、広く流通している実態が明らかになっている。

Q7:そもそも、新品種の登録はどれくらい行われている?

 新品種の開発は産地の環境や消費者の嗜好に合った農産物を生み出すために、国や県、民間事業者や個人が行ってきた。18年度末時点では8135品種が登録されており、うち5904品種が国内開発のもの。果物や野菜、米、草花などさまざまで、長い年月やコストをかけて生み出された人気品種も少なくない。

 例えば国内外で人気の高い先述のシャインマスカット。品種登録は06年だが、親にあたる「安芸津21号」と「白南」と呼ばれる品種の掛け合わせを農研機構が始めたのは1988年までさかのぼる。18年をかけて2種の交配と生み出された個体の選抜、全国の試験場や農地での栽培試験を重ねて品種登録に至った。携わった研究員は13人。シャインマスカットの親である安芸津21号の開発を含めると開発期間は33年間となるなど、戦前から始まっていた国内でのブドウの品種改良の積み重ねでシャインマスカットが生み出された。農研機構で開発に携わった日本大学の山田昌彦教授は「多くの先人の努力でシャインマスカットは誕生した」と話す。

 一方で国内の新品種の出願件数はここ10年で約4割減少している。促進に向けては研究開発の支援のほか、知的財産の保護が重要とされている。

Q8:法改正でどんな効果が期待されている?

 加藤勝信官房長官は12月12日の記者会見で「優良な品種の海外への流出を防止する措置を講じるもので、政府が取り組む農産物の輸出促進を図るうえでも大変大きな意義がある」と述べた。また、農水省は「品種の保護が強化されることで品種開発が進む」とみている。

Q9:法改正には懸念の声もあった。

 改正法では、正規に新品種を購入した農家が収穫物から種子を採取して翌シーズンの作付けをする「自家増殖」について開発者の許諾を必要とした。これまでは許諾は不要だったが、自家増殖を行っている農業者から海外に流出した事例があり、増殖の実態を開発者が把握する必要があったという。

 一方で農家の負担が増えるとの声もあり、改正法が可決した12月2日の参院本会議では立憲民主党と共産党が反対。衆参両院の農林水産委員会では政府に種苗の適正価格での安定供給や、自家増殖の許諾手続きが農家の負担にならないよう求める付帯決議を採択している。加藤官房長官は2日の会見で「農業者の過度な負担になるのではないかといった懸念については、農水省が分かりやすく対応し、引き続き丁寧に説明していく」と述べた。

Q10:開発者の権利が守られることで、海外の多国籍企業による種子の支配が進むとの懸念もある。

 農水省は「我が国では公的機関や国内の種苗会社が、海外の多国籍企業が開発できない日本の風土に適合した優良な品種を開発していて、競争力が圧倒的に高い。種苗法を改正しても海外企業による種子の支配を心配する状況にはない」との見解を示している。

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