金融政策の変更はあるか
5:政府には円安への対応策があるのか
6月10日に開かれた政府と日銀による国際金融資本市場に関する情報交換会合(3者会合)では「最近の為替市場では急速な円安進行が見られ憂慮している。必要な場合には適切な対応を取る」との声明文が発表された。財務省の神田真人財務官は、声明文の中にある「適切な対応」の中身について問われた際「あらゆるオプションを念頭に置いて機動的に対応する」と述べている。
だが「為替市場に唯一影響を与えられるのは金融政策の変更だ」と、野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは話す。中央銀行の独立性が守られる限り、政府にできる手は限られている。15日に閉会した通常国会では、円安が引き起こした物価高騰や、政府の物価高対策の効果について議論されたものの、政府・与党は円安問題にどう向き合えばよいか、実効性のある明確な答えを出していない。7月には参院選挙もあるだけに、円安は与党自民党にとっての逆風となりそうだ。
6:為替介入の可能性は
鈴木俊一財務相は14日の閣議後の記者会見で「急速な円安の進行が見られて憂慮している」と改めて懸念を表明した上で「各国の通貨当局と緊密な意思疎通を図る」と述べた。為替介入も視野に入れているというニュアンスを匂わせた発言とみられる。だが市場の反応は薄く、14日の円相場の終値は1ドル=134円56銭。実力行使を伴わない「口先介入」はもはや限界となっている。
政府による円買い為替介入のハードルは高い。協調介入には米国の理解・協力が必要だが、現在の米国の最優先課題はインフレの是正だ。輸入物価を押し下げるドル高の方が好都合という側面もあり、米国が積極的に為替介入に応じるとは考えづらい。現に米国は10日に発表した半期為替報告書で日本について「介入は例外的な状況に限り適切な事前協議を踏まえて実施されるべきだ」と触れている。仮に米国の理解を得られたとしても、協調介入ではなく単独介入となる可能性が高く、効果は限定的となるだろう。
7:円キャリー取引は復活するか
日銀の黒田総裁が緩和姿勢を崩さないことから、為替市場では「円高には振れない」と円売りを積極化する投資家が増えるのではないかとの声がある。低金利の円を売ってドルやスイスフラン、豪ドルなど高金利の通貨を買い、両者の金利差で稼ぐ「円キャリー取引」が活発化するのではという見立てだ。
黒田総裁が大規模緩和を開始した2013年4月以降、為替相場では、円売りポジションを積み上げる投資家が目立った。だが今回はそのような動きはあまりない。投機筋の売買動向を示す際に参考になる米商品先物取引委員会(CFTC)のIMM先物通貨の非商業部門のデータでも、足元で円安が進んでいるにもかかわらず、円の売越幅は減少傾向だ。投機筋の円キャリー取引はそれほど起こっていないとみられる。
ニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミストは「実需面のドル買い・円売りが円安進行に影響を与えている」と見ている。
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