米インフレ、原油価格の動向が影響

3:円が下げ止まるために必要な条件は

 米国のインフレ、原油価格高騰という、あらがえない外的要因が円安進行の主要因と捉えられている。米CPIの記録的な上昇で、米国では「インフレが減速しないリスク」が現実味を帯びてきた。米国の物価上昇は新型コロナウイルス禍からの経済正常化に伴う供給制約がきっかけだったが、今やロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格の上昇に加えて、コロナ禍で抑えられていた消費者の社会活動が活発化し、需要が旺盛になり始めている点もインフレを助長させている。インフレ懸念が後退しない限り、FRBは金融引き締めをやめないため、円安基調は変わらないだろう。

 

 一方、一昨年以降の原油価格の上昇は日本の原油輸入額を膨らませている。支払いに必要なドルを調達するためのドル買い、円売りの動きが活発化している。貿易収支は輸入額が輸出額を上回る赤字状態が続き、改善の見通しは立てにくい状態だ。ロシアへの制裁や、欧米諸国によるロシア産原油の禁輸措置導入も相次いでいる。世界の原油需給は引き続きひっ迫しており、価格高騰が収まる可能性は低いと考えられる。

4:日銀はなぜ緩和政策をゆるめないのか

 米国のインフレ、原油価格高騰といった外的要因が円安進行の主要因だが、日銀が長期金利の抑制に躍起になっている点も、円安進行を助長しているのではとの見方は強い。

 春以降の円安進行で、市場では円安抑制のために長期金利の上昇許容幅を拡大するのではとの見方があったが、4月末の金融政策決定会合では、連続指し値オペを毎営業日実施すると決定した。指し値オペとは、日銀が金利の上昇(債券価格の下落)を抑えるため、国債を指定した利回りで無制限に買い入れる制度のことだ。つまり、長期金利に事実上の上限を設け、金利上昇を抑制する策である。4月の決定会合では、今後は明らかに応札が見込まれない場合を除いて、10年国債利回りについて0.25%での指し値オペを実施することが決まった。

 日銀の黒田東彦総裁は5月20日の記者会見で「経済を下支えし、基調的な物価上昇率を引き上げていく観点から、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが適当だと考えている」と見解を述べている。米欧の金利上昇に連動する形で長期金利は上昇基調にあるが、日銀は日本の物価や経済の状況は欧米とは異なると考えている。足元の日本のGDP規模は年率換算で538兆円(22年1-3月)だが、これはコロナ前の水準(19年10-12月の年率換算で541兆円)まで回復していない。この局面で金融引き締めには転じられないとしている。エネルギー価格の上昇も一時的なものであり、物価押上げ効果も先行き減衰していくとの見方を崩していない。

 またこれまでの発言を振り返ると、黒田総裁は円安の影響について、企業が海外で稼いだ利益が円換算で膨らむことなどを理由に「全体としてはプラス」との認識を崩していない。為替市場への影響を意図して金融政策を修正することも強く否定してきた。ただ6月13日の国会では「急速な円安の進行は先行きの不確実性を高め、企業の事業計画の策定を困難にするなど、経済にマイナスであり、望ましくない」と述べるなど、若干発言に変化が見られる部分がある。

 6月16、17日に予定されているの金融政策決定会合で、日銀は景気を下支えするために金融緩和を続けるだろうとの見方は依然強い。今後の政策修正を示唆する発言があるかどうかが焦点となりそうだ。

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