極超音速兵器のフロントランナー

3:ロシアの極超音速兵器はいかなるものか?

 「プーチン大統領が今回、ウクライナ侵攻に踏み切った背景の1つに、米国が軍事技術においてロシアに後れを取っていることが影響している」(自衛官としてベルギー防衛駐在官、またNATO=北大西洋条約機構=連絡官としての勤務経験を持つ長島純氏)との見方がある。その代表例が極超音速兵器だ。

 極超音速兵器は一般に(1)マッハ5以上の高速、かつ(2)低い軌道を飛翔(ひしょう)するためレーダーで探知するのが困難。着弾前のターミナルフェーズで(3)軌道を変える能力を備えるので着弾地点を計算するのも難しい。よって、欧米諸国や日本が配備するミサイル防衛システム「イージス」でも迎撃が難しいとされる。日本にとっても悩ましい代物だ。

 ロシアは大きく分けて3つの極超音速兵器を開発もしくは配備している。その第1は極超音速滑空体(HGV)だ。ロシアは「アヴァンガルド」の配備を2019年12月に開始した。標的の近くまで弾道ミサイルで運ぶ。自らの推進力を持たないので、切り離された後はグライダーと同様に滑空する。防衛省はその速度をマッハ20以上と分析する。推進力を持たず熱を発しないため、赤外線レーダーを搭載する早期警戒衛星でも追尾が難しい。核弾頭を搭載するのが前提との見方がある。

 ロシアがアヴァンガルドを配備済みなのに対して米国は「HGVの試験失敗を繰り返していて、まだ開発中の途上にある」(長島氏)。

 第2は極超音速巡航ミサイル(HCM)。プーチン大統領は「ツィルコン」の開発をおおむね終えたという。その最高速度をマッハ9、射程は1000km以上と説明したとされる。2023年からアドミラル・ゴルシコフ級フリゲート艦に搭載される予定。さらに、ヤーセン級潜水艦に搭載されるものとみられる。ちなみに、よく知られる米国の巡航ミサイル「トマホーク」の飛翔速度はマッハ約0.76にとどまる。

 第3は弾道ミサイル「9M723」。最高速度はマッハ5.9、最大射程500kmとされる。 地上発射型の9M723を航空機に搭載できるようにしたのが「キンジャール」だ。迎撃機「MiG-31」などに搭載される。

 9M723は「マッハ5以上」という「極超音速」の一般的な要件を満たしている。それゆえ9M723は極超音速兵器と言えば極超音速兵器なのだが、弾道ミサイルはなぜか「極超音速兵器」と呼ばない習慣がある。

 北朝鮮が実験を繰り返すミサイルの中に「KN23」がある。ロシアが保有する「イスカンデル」にそっくりと形容されるものだ。この「イスカンデル」は9M723を指す。「イスカンデル」は厳密には発射装置の名称で、9M723のほか、9M728巡航ミサイルも発射することができる。

4:ロシアが展開するハイブリッド戦争とは?

 ロシアは2014年、ウクライナのクリミア半島を併合した。このウクライナ危機の一連の流れは「ハイブリッド戦争」と呼ばれる。防衛省はハイブリッド戦争を「軍事と非軍事の境界を意図的に曖昧にした現状変更の手法」と説明。小野寺五典・元防衛相は「ロシアのクリミア併合を機に戦い方が変わった」と指摘する。

 非軍事の手段とは破壊工作、サイバー攻撃、情報操作などを指す。例えば、クリミア半島併合は「リトル・グリーンメン」と呼ばれる武装勢力が地方政府庁舎や警察署などを襲撃する破壊工作から始まった。グリーンの迷彩服を着たこの集団は国籍不明で、ロシア兵なのかどうか分からない存在だった。メディアが所属を尋ねても「教えられない」と回答していた。ロシア軍特殊作戦部隊と判明したのは後のことだ。

 2015年12月には、ウクライナで数時間にわたる停電が発生。ウクライナ保安庁はこれをロシア政府が関与するサイバー攻撃によるものだと断定した。サイバー攻撃の影響は単にサイバー空間にとどまらない。電力をはじめとする基幹インフラが攻撃されれば人々の暮らしを直撃する。

 情報操作では、今回のウクライナ危機で「親ロシア派が支配する地域にウクライナ軍が侵入」したとされる映像がSNS(交流サイト)上で流布したことが注目される。ウクライナ軍が運用していない装甲車が映っている可能性があり、偽旗作戦*が疑われている。

*:自軍の行為を敵軍が実行しているように見せかける行為。開戦の口実づくりなどに用いられる

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