ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対する経済制裁として、欧米諸国はより強い経済措置に踏み切る。銀行間国際決済ネットワークである「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアの一部の銀行を排除し、ロシアの資金調達能力を弱めることで同国の経済に打撃を与えようとする算段だ。別名「経済の核オプション」とも呼ばれ、経済制裁における最終手段を意味する。国をまたいだ資金のやり取りに必要不可欠なSWIFTの機能と役割、そしてロシアや国際社会に与える影響を10のポイントにまとめた。

1:SWIFTって何?
2:仕組みは? 運用体制は?
3:排除に伴いロシア経済が受ける打撃は?
4:過去にも排除された国はある?
5:SWIFT以外で送金する手段はある?
6:ロシア排除で当初は欧米諸国の足並みがそろわなかったのはなぜ?
7:SWIFT排除以外に、主要国はロシアの資金源をどう断とうとしている?
8:世界経済にどんな影響が?
9:金融市場の反応と今後の見通しは?
10:日本企業への影響は?
1:SWIFTって何?
「Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication」の略で、国境を越えた迅速な決済を可能にし、国際貿易を円滑に行うための情報通信システムを指す。送金情報を電子的にやり取りするサービスを提供しており、海外送金の事実上の世界標準となっている。SWIFTの2020年年次報告によれば、システム上で1日当たり3800万件の送金情報がやり取りされた。
1973年に各国の銀行によって協同組合形式の団体として設立され、本部はベルギーにある。現在約200カ国・地域の金融機関、約1万が参加している。ロシア国立SWIFT協会によれば、ロシアからは約300の銀行および金融機関がSWIFTネットワークに属しているという。これは米国に次ぐ2番目に大きい規模となっている。欧米メディアによれば、SWIFT全体の送金情報のうち、ロシアが関係する情報割合は約1.5%だといわれている。
2:仕組みは? 運用体制は?
例えば日本のA銀行から海外のB銀行にお金を送ろうと思った場合、A銀行とB銀行はそれぞれの国にある「中継(コルレス)銀行」と呼ばれる決済代行銀行を介する必要がある。コルレス銀行となる国際銀行は互いに口座を持っており、そこで資金のやり取りが行われる。SWIFTの役割は、これら一連のフローの中で送金情報を送受信することだ。
米ワシントン・ポスト紙はSWIFTのことを「グローバルバンキングのGmail」と表現している。決済情報を監視せず、中立的なプラットフォームである一方、国や国際機関が制裁を決めると、それに従い対象の金融機関は排除される。
SWIFTは本部を置くベルギーの法律に従う義務があり、ベルギーが加盟する欧州連合(EU)の決定を受け入れる立場にある。よって、制裁はEUの意向が大きく働く。
3:排除に伴いロシアが受ける打撃は?
ロシアの銀行がSWIFTから排除されると、同国は世界中の金融市場へのアクセスが困難になる。ロシア企業は輸出入品の決済、国をまたいだ投資や借り入れが難しくなる。ロシアの主要輸出品である石油や天然ガスなどのエネルギーの決済が他国とできなくなるため、ロシアは収入源が断たれる。
ロシアに輸出する建機や自動車といった工業製品の代金が受け取れなくなるため、外国企業がロシアとの取引を避ける可能性も高くなる。電話回線や電子メールで伝票をやりとりする旧式の決済手法を使うことは可能だが、取引に時間やコストがかかるようになる。
国際決済から切り離されることで、ロシアの通貨ルーブルの信認が低下し通貨安となる効果も見込める。ルーブルを買い支えるためのロシア中央銀行の為替介入を規制する措置とセットにすれば(質問7を参照)、ルーブル下落が続き、ロシア経済はインフレが発生し混乱する可能性がある。カーネギー国際平和財団モスクワセンターの分析によれば、ロシアがSWIFTから排除されると、同国のGDP(国内総生産)は5%減少するという。
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