2022年11月、政府は「資産所得倍増プラン」を取りまとめ、その中にNISA(少額投資非課税制度)の総口座数とNISAにおける累計買い付け額を5年で倍増させることを掲げた。そして目標達成の目玉に据えたNISAの恒久化および非課税保有期間の無期限化が12月の令和5年度税制改正大綱で決まり、NISAは24年から新しく刷新される。

恒久化と非課税保有期間の無期限化で、NISAはシンプルかつ分かりやすい制度となった。長年、掛け声倒れに終わっていた「貯蓄から投資へ」は新NISAをきっかけに前進するか。2月13日は「NISA(ニーサ)の日」。改めて新NISAについて知っておきたい10の疑問をまとめた。

(写真=イメージマート)
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1:NISAとは何か。
2:なぜNISAは「資産所得倍増プラン」の柱なのか。
3:新しいNISAはこれまでのNISAと何が違うのか。
4:生涯投資枠とは何か。
5:新NISAで金融商品等を売却すると「枠が復活する」とは、どういう意味か。
6:新NISA口座はどこで開設できるか。
7:すでにNISA口座を開いた人の資産はどうなるか。
8:成長投資枠の対象にならない金融商品は何か。
9:つみたて投資枠と成長投資枠、両方使わなければだめなのか。
10:ジュニアNISAはなぜ廃止されるのか。

1:NISAとは何か。

 14年から始まった少額投資非課税制度を指す。英国のISA(individual Savings Account=個人貯蓄口座)をモデルにつくられた日本版ISAということで、NISA(Nippon Individual Savings Account、ニーサ)という愛称が付けられた。証券会社や銀行などの金融機関でNISA口座を開設して、株式や投資信託などを購入すると、配当金や売買益等にかかる税金約20%が非課税になる。

 現在のNISA制度は①上場株式、公募株式投資信託、ETF(上場投資信託)、REIT(上場不動産投資信託)などを投資対象とする一般NISA、②少額かつ低コストで長期・分散・積み立て投資できる投信に対象を絞ったつみたてNISA、③未成年者を対象とするジュニアNISA、の3種類がある。

2:なぜNISAは「資産所得倍増プラン」の柱なのか。

 NISAは「家計の安定的な資産形成の支援」および「成長資金の供給拡大」を目的に導入された。現在、家計の金融資産約2000兆円のうち半分以上が預貯金に偏っている。その一部を有価証券投資に振り向け、日本経済の活性化につなげたいとする政策の狙いがあった。

 スタートからもうすぐ10年。口座数は約1700万、買付総額は約28兆9000億円まで拡大している(22年9月末時点)。だが制度は時限措置でもあるため、非課税で投資できる期間が年々短くなっている点が普及の課題となっていた。

 おりしも、岸田文雄首相は「新しい資本主義」を実現するための重点施策として、貯蓄から投資への流れを強化する「資産所得倍増プラン」を掲げた。国民が賃金以外の収入を得る手段を広げれば、所得が増える可能性が高まる。また有価証券投資が広がれば、企業の成長が配当や値上がり益の形で、家計にも波及するため、岸田政権が目指す「成長と分配の好循環」の実現にもつながる。

 「資産所得倍増プラン」では、今後5年間でNISA口座とNISAの累計買い付け額を倍増する目標を掲げた。NISAの改善および大幅拡充を切り札に、この流れをより一層拡大したい考えている。

3:新しいNISAはこれまでのNISAと何が違うのか。

 24年から始まる新しいNISA(以下新NISA)では一般NISAとつみたてNISAという2つに分けられていたものを、「成長投資枠」「つみたて投資枠」から構成する新NISAに一本化する。ジュニアNISAは廃止する。また、非課税期間を無期限にし、年間投資上限額を最大360万円に引き上げ、「生涯投資枠(非課税保有限度額)」も1800万円に増やす。

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 大きな変更点は主に2つある。1つ目は制度の恒久化だ。今までの口座開設期間は一般NISAが23年まで、つみたてNISAは42年までだった。新NISAではこれが無期限になる。さらに非課税で運用できる期間が一般NISAが5年、つみたてNISAは20年だったが、新NISAでは無期限となる。つまりいつからでも、そしていつまでも投資を続けることができるようになる。

 2つ目は投資額の大幅拡大だ。従来は一般NISAが120万円、つみたてNISAは40万円が年間の投資限度額だった。つまり一般NISAは120万円×5年=600万円、つみたてNISAは40万円×20年=800万円が投資できる上限だった。加えて一般NISAとつみたてNISAの両方を使うことはできず、どちらかを選ばなければならなかった。

 新NISAでは年間投資限度額が、一般NISAのコンセプトを引き継ぐ成長投資枠で240万円、つみたてNISAの後釜となるつみたて投資枠では120万円となる。加えて、両方とも利用することができるようになるため、年間投資可能額は360万円と大幅に拡大する。その一方で生涯投資枠を設定し、新NISA制度を使って投資できる金額の上限を1800万円にした。だが1800万円のうち、成長投資枠で使える金額は1200万円までだ。

4:生涯投資枠とは何か。

 今のNISA制度は、一般NISAが120万円×5年間=600万円、つみたてNISAが40万円×20年間=800万円が実質的な投資上限額だった。また買い付け時点で投資枠を消費するため、非課税期間中に売却しても、その分の買い付け限度額が再び増えることはなかった。

 だが新NISAでは生涯投資枠1800万円に達したとしても、商品を売却すれば、売却した翌年に空いた分の投資枠が復活するので、また投資することができる(詳細はQ5参照)。

 年間投資枠、生涯投資枠に上限を設定したのは、資産を多く持つ富裕層に恩恵が偏らないようにするのが狙いだ。もっとも「毎年360万円の投資枠をフルで使える人はほとんどいない」(大手証券幹部)というのが業界内の見立て。実際、証券投資信託協会が22年3月に公表したアンケート調査結果で「毎月の積立希望額」の回答は、平均で月額1万8000円だった。「今のNISAの投資枠でも十分足りる」(財務省関係者)ため、当初財務省は、投資枠の拡大に慎重だったようだ。

 それでもある程度の投資枠を生涯投資枠として確保したのは、ライフステージに応じて投資できる時期と投資できない時期があると考えたからだ。例えば資産の少ない若いうちは毎月少額の積み立て投資しかできなくても、結婚、子育てといったライフイベントが過ぎて余裕ができれば、投資額を積み増しできるようになるかもしれない。退職金や相続など、まとまった資産が入るケースもあるだろう。一人ひとりの事情に応じて柔軟に投資枠を活用できるのが、新NISAの大きなメリットといえるだろう。