ロシアがウクライナとの国境周辺に10万人規模の部隊を展開。 ロシアによるウクライナ攻撃は「いつ始まってもおかしくない」(サリバン米大統領補佐官)と米国は警戒を強める。 ロシアのプーチン大統領はなぜ緊張を高めるのか。ロシア軍は侵攻するのか。 ロシアと中国の共闘はあるか。 関連項目も含め知っておきたい10項目を整理した。

ウクライナ情勢緊迫 ロシア軍による侵攻の懸念(写真:ロイター/アフロ)
ウクライナ情勢緊迫 ロシア軍による侵攻の懸念(写真:ロイター/アフロ)

1:ウクライナはどんな国か?
2:なぜ、ロシアによるウクライナ侵攻が懸念されるのか?
3:ロシアはなぜ今、ウクライナをめぐる緊張を高めているのか?
4:2014年に始まったウクライナ紛争はいかなるものか?
5:なぜクリミア半島と東部2州が紛争地となったのか?
6:プーチン大統領が停止を望むNATO東方拡大とは何か?
7:ロシアがウクライナに侵攻した場合、世界経済にどのような影響があるか?
8:欧州で孤立を深めるロシアが中国との関係を深めることはないか?
9:ロシアと中国がウクライナと台湾で米国に二正面作戦を迫る可能性はあるか?
10:米国に中距離ミサイルを配備しないよう求めるロシアの要求は中国にメリットをもたらすか?

1:ウクライナはどんな国か?

 かつてソ連を形成した共和国の1つ。北東部はロシアと国境を接し、南は黒海に面している。国土の面積は約60万平方メートルで日本のおよそ1.6倍。人口約4000万人超を擁する欧州の大国だ。GDP(国内総生産)は1555億ドルで、1人当たりにすると3726ドル(いずれも2020年)となる。

 10~12世紀に欧州の大国であったキエフ・ルーシ公国を起源とする。同公国はビザンチン帝国と肩を並べる時期もあった。その後のロシア、ウクライナ、ベラルーシの基礎を形作った。ロシアは自国を1000年の歴史と栄光を持つ同公国の正統な継承者と主張するが、同公国の中心地都市キエフがあるウクライナを本家とする見方もある。

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2021年7月に論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」を発表し、歴史的に両国人は1つの民族だったと主張した。これに対して、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「ひとつの民族ではない」と嫌悪感をあらわに否定した。

 キエフ・ルーシ公国は13世紀、モンゴル軍の侵攻によって倒れた。ウクライナの地はその後、リトアニア大公国やポーランドに支配される。18世紀になり、エカテリーナ2世の治世下で帝政ロシアに併合された。ロシア革命のあと一時的に独立を達成するが、すぐにソ連(当時)の勢力下に入れられ、1922年に同国を構成する共和国となった。ソ連からの独立を果たしたのは1991年のこと。

 ウクライナは核と多くの因縁を持つ。1986年に事故を起こしたチェルノブイリ原発はウクライナに位置する。この事故では、広島に投下された原爆約400発分の放射性物質が大気中に拡散した。1994年には、ソ連崩壊後に残されていた核兵器をめぐるブダペスト覚書を米国、英国、ロシアなどと締結。ウクライナが核兵器を放棄する代わりに、これらの大国がウクライナの独立と主権を保証する約束だった。

2:なぜ、ロシアによるウクライナ侵攻が懸念されるのか?

 ロシアが2021年秋から、ウクライナとの国境周辺に10万人規模の部隊を集結させているとされるため。ロシアの地上兵力36万人の約3割を集める極めて大規模な動員。万の単位で予備役を招集するのも異例とされる。

 その狙いについてはさまざまな見方がある。1つは「ソ連(当時)が崩壊した後、米国1強の状況の中で培われてきた欧州安全保障の秩序の形成プロセスの歯車を逆回転」(畔蒜泰助・笹川平和財団主任研究員)させること。この「秩序」の代表例が、プーチン大統領が米国やNATO加盟国に停止を求めるNATO(北大西洋条約機構)の東方拡大だ(質問6を参照)。

 このほか「ウクライナを属国にする」、ソ連崩壊後に失った「東欧諸国に対するロシアの権益を取り戻す」(宮家邦彦・キヤノングローバル戦略研究所・研究主幹)取り組みの第一歩、などの見方がある。

 これらの見方に共通するのは、ロシアが持つ「大国」意識だ。ロシアはキエフ・ルーシ公国の正統な継承者であり、国際舞台において発言力を持つ、世界の秩序を作り出す――。前出の論文にプーチン大統領が記した「ウクライナの真の主権は、まさにロシアとのパートナー関係の中でこそ可能になる」との表現にこの大国意識が垣間見える。

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