入社時に特定の金融機関の給与口座を指定され、そのまま普段使いの口座として利用する会社員も多いはず。そんな常識が変わろうとしている。企業が給与について銀行口座を介さず払えるようにする議論が厚生労働省の審議会で進んでいる。「○○ペイ」などを運営する資金移動業者が提供するスマートフォンのアプリでデジタルマネーとして給与を受け取り、即座にスマホ決済ができるようになる。キャッシュレスを加速させる好機になりそうだが、問題点はないのか。整理した。

1:そもそも現在の給与支払いのルールはどんなもの?
2:デジタル給与払いになると、何が変わる?
3:具体的な方法は?
4:制度変更の背景は?
5:メリットは?
6:デメリット、問題点は?
7:銀行口座を介した給与支払いの現状は?
8:給与口座からの出金のうち、キャッシュレス決済の比率は?
9:銀行界、労働団体の反応は?
10:資金移動業者を監督する金融庁はどうみている?
1:そもそも現在の給与支払いのルールはどんなもの?
労働基準法24条では「賃金は、通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならない」と規定されている。モノなどの現物支給は禁止されている。細かくいえば、①「通貨」で、②「直接」、③「全額」を、④「毎月1回以上」の頻度で、⑤「一定期日」に、企業は労働者に給与を払わなければならない。この①~⑤は「賃金支払いの5原則」として労基法に定められている。
ただし例外的に、企業と労働者間の同意などがあれば、労働者が指定する銀行その他の金融機関の口座や、証券総合口座への振り込みなどで給料を支払うことが労基法の施行規則で認められている。今では当たり前となっている銀行口座への給与振り込みは、法律上では例外となっている。
2:デジタル給与払いになると、何が変わる?
政府は、給与支払いのデジタル化を解禁する方針を示している。1月28日に始まった厚生労働省労働政策審議会で、専門家による議論が始まっている。現在の施行規則を改正し、PayPay、LINE Payなどスマートフォン決済サービスなどを提供する「資金移動業者」の口座にも給与を振り込めるようにすることが想定されている。
3:具体的な方法は?
資金移動業者が発行するプリペイド(前払い)式の給与振り込み用カード「ペイロールカード」の導入が想定されている。企業は銀行などの金融機関を経由せずに直接ペイロールカードの口座に振り込むことができる。こうしたペイロールカードをPayPay、LINE Pay、メルペイなどといったキャッシュレス決済事業者のサービスと接続して、給与を残高として扱えるようになれば、買い物でスマホ決済がしやすくなる。ATMなどで現金を引き出すことも可能だ。ちなみに米国では、ペイロールカードがすでに普及している。
4:制度変更の背景は?
菅義偉政権が掲げる政策の目玉の1つに、行政サービスや社会全体のデジタル化の推進が挙げられる。給与は生活資金の基盤となるため、給与払いのデジタル化を解禁することで、社会のキャッシュレス化を加速させるとともに、国全体のデジタル化を促したい狙いがある。日常の買い物シーンでは、QRコードなどを使用したキャッシュレス決済が増えており、現状を踏まえた顧客の利便性を考慮した面もある。
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