新型コロナウイルスの収束に向けて、国などが準備を進めているワクチンの接種。いつ、どこで接種を受けられるのか、懸念材料はないのか、知っておきたい10項目をまとめた。
1:いつ受けられる?
2:接種は強制?
3:どこで接種を受ける?
4:接種にはどんな手続きが必要?
5:接種のタイミングはどうやって知らされる?
6:接種にはお金がかかる?
7:現在、どれだけワクチンが確保できている?
8:接種を担う医師や看護師、会場の確保に課題は?
9:自治体職員の確保はできている?
10:ワクチンの配送で懸念されていることは?
1:いつ受けられる?
菅義偉首相は1月18日、報道陣に対して「ワクチンは感染対策の決め手。できる限り2月下旬までに開始する」と語った。ただ、ワクチンは「徐々に供給される」(厚生労働省)ため、一度に全国民を対象とした接種を開始するのではなく、
- 医療従事者等
- 高齢者(1957年4月1日以前に生まれた人)
- 高齢者以外で基礎疾患を有する人や高齢者施設等の従事者
- それ以外
の優先順位で段階的に対応していく考えだ。
国はまず、医療従事者のうち国立病院機構などに所属する医師や看護師から希望者を募って約1万人に先行して接種し、副作用などの健康調査をする。その後、それ以外の医療機関で新型コロナ感染者の診察をする医師らに対象を広げ、高齢者や一般の接種する方針だ。
厚労省は「薬事承認などの手続きもあるため、現時点で接種時期は示せない」と説明した上で、高齢者への接種は3月下旬、一般の人へは5月までに「接種を実施できる体制を整える方針」(厚労省担当者)としている。厚労省が自治体向けに出している手引では、一般の人への接種について「ワクチンの供給量・時期等によっては、年齢により接種時期を細分化する可能性がある」とも記している。
2:接種は強制?
強制ではない。厚労省は「予防接種による感染症予防の効果と副反応のリスクの双方について理解した上で、自らの意志で接種を受けていただく」としている。
3:どこで接種を受ける?
厚労省は予防接種を受ける地域について「原則、居住地の市町村」としている。ただ、出産のために里帰りしている妊産婦や遠隔地で下宿している学生、単身赴任者などは例外的に住民票の所在地以外でも接種は可能としている。
接種場所は市町村(特別区を含む)が委託する医療機関のほか、市町村が必要に応じて保健所や保健センター、学校、公民館などを確保して会場とする。
4:接種の手続きは必要?
厚労省の説明では
- 接種時期前に市町村から「接種券」と「新型コロナワクチン接種のお知らせ」が届く。
- 自身で接種可能な時期が来たか確認する。
- ワクチンを受けることができる医療機関や接種会場を探す。
- 電話やインターネットで予約する。
- 届いた「接種券」と運転免許証や健康保険証などを持参し、医療機関や会場で接種を受ける。
としている。
②の接種券とは、市町村が接種対象者に対して発行するもので、自治体名や氏名、接種情報登録用のバーコードなどが印字される。これをもとに医療機関などが接種対象者であるかを確認する。
5:接種のタイミングはどうやって知らされる?
厚労省の担当者は「基本的には接種を受ける方が自治体のホームページなどを見て確認したり、問い合わせたりしてもらうことになる」と説明。現在構築中のオンラインシステムで実施状況や、予約の空き状況などが確認できるようになるという。
6:接種にはお金がかかる?
無料。政府は20年度第3次補正予算案で接種体制の整備に向けて5736億円を計上している。厚労省によると、このうち4320億円が予防接種の実施費用で、そのほかは自治体のコールセンターの設置費用やワクチンを保管するドライアイスの費用などという。
7:現在、どれだけワクチンが確保できている?
厚労省は1月20日、米製薬大手ファイザーと21年中に1億4400万回分(約7200万人分)の供給を受けることについて契約を締結。そのほか、米モデルナとは5000万回分(2500万人分)、英アストラゼネカと1億2000万回分(6000万人分)の契約を結んでいる。
菅首相は1月22日の参院本会議の代表質問で「全体として3億1000万回分を確保できる見込み」と説明した。
8:接種を担う医師や看護師、会場の確保に課題は?
複数の自治体に取材したところ、いずれの自治体も会場選びなどに着手した段階で、手探りの状態であることがうかがえた。
千葉市の担当者は「場所を多く確保しようとすれば、必要な医療従事者も当然多くなる。非常に悩みながらやっている」と説明。横浜市の担当者も「人口が非常に多く、集団接種ともなれば大きな施設の確保が必要になる。市民が分かりやすい、行きやすい場所でなければならず、どこを会場にできるか調整している段階」としている。
医療人材総合サービスのエムステージ(東京・品川)が医師483人に行ったアンケートでは、新型コロナウイルスのワクチンを接種する業務について34%が「スポット・定期いずれでも希望」、58%が「スポットで希望」、1%が「定期で希望」と9割以上が前向きな考えを示した。一方で、接種時に副反応がみられた場合の対応など不安の声も多く寄せられた。医師らへのサポート態勢を整える手立ても、円滑な接種を進める上では重要と言えそうだ。
9:自治体職員の確保はできている?
厚労省は新型コロナウイルスワクチンの接種について「厚生労働大臣の指示のもと、都道府県の協力により、市町村において実施する」としている。設問7のように、接種を行う医療機関や会場の手配などは市町村が担うことになっており、各地で体制の整備を急いでいる。
1月に入り、先述の千葉市や横浜市をはじめ全国の多くの自治体が予防接種を担当する新たな部署を設置したり、担当職員の任命などを行っている。いずれも普段、予防接種などを取り扱う部署のほか、庁内から横断的に人員を集めているケースもあった。ただ、ある自治体の担当者からは「予防接種以外の業務も当然あるため、人員をかき集めるのにも限界がある」との嘆きも。「国から会場の確保などの基本方針が示されたのは12月中旬。高齢者の接種に向けて3月末までに体制を整えろと言われても、なかなか難しい」との声もあった。
10:ワクチンの配送で懸念されていることは?
供給面でボトルネックとなるのは配送過程でのワクチンの品質の担保だろう。
ワクチンは厳格な温度管理のもとで海外から輸入されるが、日本では空港や倉庫などから全国に配送する過程の温度管理について、十分に対応できる配送業者の数が限られている。超低温での配送が必要なワクチンもあるため、保管中の温度変化を常時記録して、配送先に引き継がなければならない。そのためには、データロガーなどで配送や保管時の温度変化を全て記録しておく必要がある。だが、現状はそこまでの対応が可能な配送業者は限られる。全地球測位システム(GPS)や温度センサーなどの管理システムが欠かせず、整備に多大なコストがかかってしまうためだ。
厚労省が契約したワクチン製造元は3社あり、米ファイザー製は零下75度(±15度)、英アストラゼネカ製は2~8度、米モデルナ・武田薬品工業製は零下20度(±5度)で配送・保管する必要がある。新型コロナのワクチンは新しく開発されたため、配送中の温度管理が不十分で許容される温度変化を超えた場合、その有効性が担保できるかは未知数だ。アストラゼネカ製はインフルエンザワクチンの配送と同じ温度管理のため医薬品卸売業者の配送網などで対応できる。モデルナ製は武田薬品工業の持つ流通ネットワークを活用する。
課題となるのは21年中に約1億4400万回分の供給を受けるファイザー製だろう。同社のワクチンは零下75度で保管するためにディープフリーザー(超低温冷凍庫)が必要となる。配送時にはドライアイスを詰め替える保冷ボックスを使用するが、流通過程での温度管理が難しい。加えて、ファイザー製は流通形態も特殊だ。医薬品卸売業者を通さないため、配送業者はファイザーから承認を受けた条件で配送・保管しなければならない。輸入後に国内倉庫へ運ばれたワクチンを医療機関などの接種会場まで超低温を維持して運ぶ必要がある。
ファイザー製ワクチンの流通形態について国内の配送業者からは、「既存の施設だけで条件を満たすのは難しい」といった声が聞かれた。
配送業者はひとまず空輸されたワクチンの品質を担保できる体制の構築を急ぐ。例えば、近鉄エクスプレスは新型コロナワクチンの取り扱いに対応するためのタスクフォース(TF)を組織した。同社広報担当者は、「ワクチン配送では保管スペース、温度管理コンテナの確保が最大の課題。航空貨物での空輸が中心になるとみられるため航空会社や温度管理容器プロバイダーとの情報交換を進めている」と話す。
日本通運はバイオ医薬品や幹細胞などの配送・保管といった再生医療分野の需要に対応すべく構築した医薬品サプライネットワークを活用する。同社は18年12月に厚労省が示した日本版「医薬品の適正な流通(GDP)ガイドライン」などに準じて配送網を構築してきた。国内に4拠点を設けており、埼玉県久喜市、大阪府寝屋川市、北九州市、富山市に拠点を構える。久喜市と寝屋川市の拠点にはディープフリーザーが設置できる電源と空調設備を完備。零下75度や零下20度で保管するワクチンにも対応できる。
ワクチンの超低温保管にはフリーザー用の電源が欠かせない。また、フリーザーそのものが発熱するため、保管や配送での温度変化を24時間、365日トレースできないと品質は担保できない。日本通運の新しい拠点はディープフリーザーに対応可能ではあるが、再生医療などの需要に向けて整備してきたため倉庫の面積に限りがある。大量のワクチン保管に1社で対応できるわけではない。そこで、ワクチンの品質を守るために、ワクチン配送・保管に関わる配送業者はGDPガイドラインを順守する姿勢が求められる。
GDPは欧米が先行して整備してきた医薬品の配送に関する基準だ。欧州では法制化されており米国でも近く法制化の動きがある。しかし、日本版GDPはあくまで「ガイドライン」であり、ワクチン配送で温度管理が適切であったかを証明しなくてよい。配送品質は配送業者の責任感によるのだ。ただ、国がルールを厳格化して配送業者にシステム整備を強制すれば、結果として配送コストが高くつく。その金銭的な負担は最終的に国民が負うことになる。
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