新型コロナなどあらゆる感染症流行時の公衆衛生のあり方を研究する米ハーバード大学薬学部のアサフ・ビットン准教授は、「政治的な集会か趣味のイベントかは関係ないが、大人数が1カ所に集まれば感染拡大を招くことは、科学的に証明されている」と話す。

科学を否定するリーダー

 大統領選の選挙活動中、2人の候補が発信するメッセージは対照的だった。ジョー・バイデン前副大統領が、演壇で話すとき以外は常にマスクを着用し、集会も一部オンライン化するなど感染拡大防止への配慮を強調したのに対し、トランプ氏は「対面」にこだわった。10月2日に新型コロナに感染して入院し、復活した後も、全米各地を数千人規模の支持者を集めて遊説した。

 記事冒頭の写真は、トランプ氏が10月19日にアリゾナ州で開いた集会の様子だ。支持者のほとんどがマスクを着用していない。この日、トランプ氏は、自ら新型コロナ対策チームのメンバーに選んだアンソニー・ファウチ国立アレルギー感染症研究所長を「イディオット(間抜け)」と糾弾。同氏がパンデミック発生当初、マスクは必要不可欠ではないと言っていたと責めた。

 ビットン准教授は、米国で感染拡大を招いた3大要素の2つに「リーダー不在」と「科学に基づく一貫した方針の欠如」を挙げた。残る1つが「コミュニティーの分断」。ここには政治的分断だけではなく、移民の集合体である米国ならではの文化的分断も含まれる。

 11月21日、ニューヨーク・ポスト紙の「秘密裏に開かれたマスクのない大規模結婚式」と題された記事が物議を醸した。記事の動画には、収容人数7000人のユダヤ教会を埋め尽くした参加者がすり鉢状の客席に並び、音楽に合わせて上下に跳ねる様子が映し出されていた。ユダヤ系移民の伝統的な結婚式の様子だという。

 ニューヨーク市のブルックリン地区にはユダヤ系移民が集まる大きなコミュニティーがあり、パンデミック当初から、州や市が定めたマスク着用や大規模集会の禁止に抗議を続けてきた。記事が出た翌日、同市のビル・デブラシオ市長は主催者に1万5000ドルの罰金を科すと話した。

ワクチン拒否なら遠のく収束

 個人の権利を主張する国民の反対で物事が進まない状況はこれまでにもあった。自動車のシートベルト着用の義務化だ。「シートベルトの強制は個人の権利を阻害する」との議論は1950年代から繰り広げられ、ニューヨーク州が初めて着用の義務を法制化した84年まで約30年もかかった。

 同じ論争がインフルエンザなどのワクチン接種でもある。米疾病対策センター(CDC)の統計によると、インフルエンザ関連の死者数は冬期を中心とする2019~20年の1年間で2万2000人に上った。インフルエンザが米国で猛威を振るう背景には、冒頭のウェバー氏も指摘していた「個人の健康を守る手段は個人が決めるべきだ」との考え方があり、いまだにワクチン接種を拒否する人たちがいる。新型コロナのワクチンも例外ではない。

 「21年4~6月期に米経済はさらに深い景気後退期に突入する」。こう予測するのは、マクロ経済コンサルタントのコマル・スリクマール氏だ。

 理由は自明。1月5日にジョージア州で実施される上院2議席の決選投票で共和党が1議席でも獲得すれば、米議会は「ねじれ」となる。すると民主党がまとめた追加の2.2兆ドル規模の経済対策案は議会通過を阻まれ、連邦政府の補助金が国民の手に渡る可能性が低くなる。新型コロナワクチンも、広く国民の元に届くのは「21年晩夏か秋ごろ」(ビットン准教授)とみられている。その直前の4~6月期に企業倒産や失業者がさらに増えるというわけだ。

 一方の米株式市場では20年11月24日、米ダウ工業株30種平均が史上最高値の3万ドル台を記録した。新型コロナワクチンの完成やバイデン新政権への期待感が投資家の間に広がったためだが、足元がふらつけば砂上の楼閣となりかねない。この4年間で、米国内で加速した分断の代償はあまりに大きい。

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