全2344文字

 新型コロナウイルスによる業績悪化で株主優待制度を廃止、縮小する企業が出始めた。個人投資家からは不満の声もあるが、日本株の株主に占める個人の比率は2割弱に過ぎない。大半を保有する金融機関や事業法人といった大口投資家は、株主優待をどう処理しているのだろうか。あまり知られていない実態を探った。

 6月中旬、東京都葛飾区に拠点を置くNPO法人のレインボーリボンは地域の子ども向けに、弁当の持ち帰りサービスを始めた。かねて運営する「こども食堂」がコロナ禍により開けなくなっており、密回避のため弁当を持ち帰ってもらう形で再スタートした。例えば、7月11日の弁当のメニューはキーマカレー。この日に使ったコメは、じつは岡三証券から提供された株主優待品だ。

NPO法人のレインボーリボンは、証券会社から提供された食材を活用している

 コロナはこども食堂に通う児童に多大な影響を及ぼした。緊急事態宣言で学校が休校になり、給食を食べられないことで栄養が不足する困窮家庭の子どもが増えたという。臨時休校中は近隣の弁当屋や飲食店の協力を得て、約3カ月間で1495個の弁当をこども食堂に普段通っている児童らに届けた。そして給食が再開された6月からは、弁当配布の形でこども食堂を復活させると同時に、困窮家庭にコメなど食料の支援物資を配る対応も始めた。

 こども食堂なら1回の開催で10~20合分のコメがあれば足りたが、各家庭に食料を配布するとなると1合や2合というわけにはいかない。「各家庭に最低でも2キロという単位が必要になる。一般の方からの寄付分だけではコメが全く足りなくなった」(緒方美穂子代表)

 レインボーリボンが頼ったのが日本証券業協会(日証協)が今年1月に稼働させた「こどもサポート証券ネット」。日証協に加盟する証券会社が、自社に送られてきた株主優待品を日証協に寄付できる目録として登録し、日証協がNPO法人の希望と突き合わせてマッチすれば優待品がNPOに送られる仕組みだ。

 こどもサポート証券ネットに登録するとコメを提供してくれる証券会社がいくつも見つかった。これまでに光世証券から魚沼産コシヒカリと缶詰、岡三証券からコメや焼きのり、スープなどを受け取った。緒方代表は「株主優待品なので贈答品のような高級品でとてもいいものがいただける」と感謝する。お弁当の持ち帰りで再び始めたこども食堂でも、キーマカレーのように優待のコメが活躍中だ。

 レインボーリボンにコメを送った岡三証券や光世証券は、上場企業の株を多く自社で保有している。株主として優待品を受け取ったものの、自社では消費できないため寄付したというわけだ。10月20日時点で日証協のこどもサポート証券ネットに参加する証券会社の数は32社に達し、支援を求めるNPOなどの数は32団体ある。1月15日の運用開始から10月20日までの間のマッチング成立件数は223件を数え、コメや飲料、レトルト食品などがNPO団体に支給されている。

換金不可能なものも生かす

 そもそもなぜこのような仕組みができたのか。個人投資家が大喜びする株主優待は、証券会社のような機関投資家のところにも平等に送られてくる。しかし個人名義ではなく法人として株を持っている投資家は、その取り扱いに苦慮しているというのが実情だ。

 仮に優待品がクオカードのように換金可能な場合、換金して雑益という項目で法人収入に繰り入れることが多いようだ。しかしコメなどの食料品は換金ができない。ではどうするのか。

 こどもサポート証券ネットに参加しているアイザワ証券はこれまで、優待品を忘年会で分けたり、関連部署が消費したりしていた。日持ちのしない生鮮品はやむを得ず捨てることも多かったという。しかし「特定の従業員だけがもらうのは公平性に問題があるし、捨てるのも罪悪感がある」(経営企画部の水野尚氏)。対応に悩んでいたところに日証協のこどもサポート証券ネットの取り組みが始まったため早速参加した。

 日証協とは別に、個別企業として似たような仕組みを築いているのが大和証券グループ本社だ。株主として受け取った優待品のうち、クオカードや図書カード、株主優待航空券などはチケット業者を通じて換金して運用益として戻し入れる一方、換金不可能なものは社会福祉協議会やNPOなど多方面に寄付している。

大和証券に届いた優待品。コメなど食品も多いという

 中には品物で寄付先をひもづけているものもある。優待で届いた飲料水は江東区で障害を持つ子の学童を運営するこぴあクラブに、冷蔵品や生鮮品はNPO法人のファミリーハウス(東京・千代田)にといった具合だ。ファミリーハウスは遠方の自宅を離れて都内の専門病院で治療を受ける子供とその家族のための滞在施設を運営している。大和はこれまでイクラやカズノコなどの海産物、ハムやチーズ、アイスクリームなどの冷蔵品、生鮮品をファミリーハウスに滞在する家族に寄付しており、喜ばれているという。

 経営企画部SDGs推進室の布川真理子氏は「換金できない優待品は以前も寄付していたが、生鮮品は寄付するまでに腐ってしまうため廃棄していた。実際、サクランボを捨てるところを目撃したこともある」と振り返る。今は生鮮・冷蔵品が届くと送料も大和負担ですぐにファミリーハウスに送る仕組みが構築されている。

 株主優待で日々の暮らしをほぼ完結させる「優待名人」の桐谷広人氏が有名になるなど、個人投資家の間で株主優待への関心は非常に高い。だが機関投資家にとって株主優待は「なくても困らないというか、あると取り扱いに困ってしまう」(大手生命保険)ものなのだという。

 法人として自らが株主の場合はまだいいのかもしれない。自分のお金で株を買ったわけではないのに株主優待が届いてしまう人が世の中にはいるのだ。いったいどんな人たちだろうか。連載2回目で紹介する。