勢いを増す日本映画と新時代の日中協業

 実は文化大革命以降初めて上演された外国映画は高倉健主演の「君よ憤怒の河を渉れ」で、当時10億に満たない人口だった中国で8億人が見たといわれた。またチャン・イーモウの「LOVERS」、ウォン・カーウァイの「花様年華」「グランド・マスター」などに音楽を提供する梅林茂ら、映画に関係する制作者も多数、中国で活躍してきた歴史がある。

 「君よ~」が中国で公開された1978年はくしくも、当時副首相だった鄧小平が初来日し、大阪の松下電器産業(現パナソニック)本社に松下幸之助を訪ね、熱心に中国進出を誘致した年でもある。その招きに応じて日本企業として非常に早い時期に進出を決めたパナソニックは、中国で長らく特別な存在とされてきた。

 高倉健から現在に至るまでの中国映画界の勢力図と日本の立ち位置の変遷は、当時の日本企業へのあこがれ、その後の欧米外資の進出と中国企業の成長、そしてそれについていけなかった日本企業の地位の凋落(ちょうらく)にも重なる。しかし違うのは、日本映画が近年勢いを増していることだ。

中国における日本映画公開数(本)
中国における日本映画公開数(本)
[画像のクリックで拡大表示]

 2019年は特に公開数が多く、中でも「千と千尋の神隠し」は興収4.88億元(約77.1億円)の興収を上げた。世界一の映画市場であるハリウッドへの進出は日本映画界にとって悲願だといえるが、ごく一部の作品を除いてはなかなか受け入れられているとはいえないのが実情だ。しかし、その米国と肩を並べるようになった中国市場は特有のリスクや不透明さがある一方、このように現実的に進出できる市場であることも間違いない。10月末に台湾で公開されるなど国外にも広がる「鬼滅の刃」は中国でも人気が高く記録更新を期待したいところではあるが、内容面から劇場公開の審査を通すのはかなり難しいのではないかともささやかれる。

 今後の可能性を感じさせるという意味でぜひ紹介したいのが、今年2月に春節にあわせて公開予定だった中国映画「唐人街探案3」だ。18年に公開された前作は34億元(約537億円)を稼ぎ出した超人気作で、多くはない「作れば確実に当たる」作品の1つだ。

 今作では日本が舞台に選ばれ、栃木県足利市に建設された、渋谷スクランブル交差点を丸ごと再現したオープンセットで延べ4500人のエキストラを動員するなどして撮影した。妻夫木聡、長澤まさみ、染谷将太、浅野忠信、三浦友和ら日本人の人気俳優が多く出演している。その一方、監督や脚本をはじめとした製作スタッフはほぼすべて中国人で、れっきとした中国製作の映画でもある。単なる出資比率ではなく、またどちらかがどちらかを指導するといった形でもなく、日中がそれぞれのリソースを持ち寄って1つの作品を作るという方法もまた、他のビジネスにおいても今後望まれていく協業の方法だろう。

2021年春節に公開予定の「唐人街探案3」
2021年春節に公開予定の「唐人街探案3」
「唐人街探案3」は栃木県足利市に建設された巨大な渋谷スクランブル交差点のセットで撮影された
「唐人街探案3」は栃木県足利市に建設された巨大な渋谷スクランブル交差点のセットで撮影された

 新型コロナウイルスの流行によっていったん公開が取り下げられ、21年の春節に中国で公開されることが発表された本作は、まだ正式なアナウンスはされていないもののおそらく日本でも公開されるだろう。このような映画が日本で公開されれば間口が広がり、普段中国映画に興味を持たない人が触れるきっかけにもなる。何よりこうした映画の成功によって、同じく日本人俳優が複数出演した「ラスト サムライ」での好演をきっかけにハリウッドでの活躍の機会を得た渡辺謙のように、中国サイドから日本人俳優を起用したいという声が上がるかもしれない。そしてそこからアジアで知らない人はいない日本人スターが生まれたら……というのは、期待しすぎではないと思いたい。(文中敬称略)

※特に注記がない限り、文中データ出典は猫眼電影(中国)、Box Office Mojo(中国以外)

この記事はシリーズ「中国・白黒まだら模様」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。