(写真:ロイター/アフロ)
(写真:ロイター/アフロ)

 「会社の発展初期、『日本人デザイナーを招いたブランド』として宣伝したのは誤った行為でした。23年3月までに『脱日本化』を完了します──」。8月18日、中国の小売り大手「名創優品(以下、メイソウ)」が突然謝罪文を出した。メイソウに限らず「日本っぽさ」は中国において長く定番の商法で、真面目に日本要素を取り入れるというよりは、あくまで優良誤認を誘う雰囲気づくりの小道具として使われたものが多かった。この「脱日本化宣言」はこれまでのメイソウのブランドの核心だった日本っぽさビジネスからの脱却ともいえるが、次の一手はまだ見えていない。

大胆に日系要素を取り入れて大成功

 メイソウはもともと中国南部、広東省で葉国富氏という雑貨チェーンの成功者によって2013年に立ち上げられた。当初から「MUJIとユニクロとダイソーを足しっぱなしにした」といわれるような店舗やロゴのデザイン、100円ショップのような売り方、「渋谷区神社前」にあることになっていた本社、日本人デザイナーの起用といった「日本」風味を前面に出して中国国内で大ヒット、瞬く間に海外にも進出を果たし、既に世界中で5000店舗以上を展開して米国、香港でも上場する小売り大手だ。しかし神社前は当然実在しない住所で、日本人デザイナーはイベントに出席しているため存在はするようだが、結局素性はよく分からないままだ。ちなみに日本国内では14年に東京・高田馬場などに実際に店舗を開設し、一時期はイオンモールに多く出店するなどで店舗展開を図ったがいずれもうまくいかず、21年末までに日本国内の店舗はすべて閉店している。

2017年、埼玉県の店舗オープニングイベントに登場したメイソウの「日本人デザイナー」三宅順也氏(右から2番目)
2017年、埼玉県の店舗オープニングイベントに登場したメイソウの「日本人デザイナー」三宅順也氏(右から2番目)
香港ブランド「優の良品」は往年の大ヒット
香港ブランド「優の良品」は往年の大ヒット

 尖閣諸島の領有権問題で日中関係が最悪だった12年のすぐ後にあえて「日系」を前面に出した葉氏のビジネスマンとしての嗅覚と胆力は素晴らしいものだったといえる。おそらく葉氏の脳裏には1993年に香港で生まれて大成功した「優の良品」という菓子ブランドがあったのではないだろうか(2022年6月に全店舗閉鎖と報じられた。主な顧客だった大陸からの観光客が新型コロナウイルスの感染拡大により途絶えたことが原因とされる)。日本に対してちょっとした憧れはあるが、個人旅行で行くにはまだ少しハードルが高かった当時に、シンプルな日本風のデザインとそれなりの品質、手に入りやすい低価格で提供すれば中国人に売れるのは当たり前……というのは典型的な後講釈で、当時の中国の空気を知る人ならほぼ全員そんな判断はできないと言うはずだ。

優良誤認の定番「日本っぽさビジネス」

 とはいえ中国で日系を売りにするブランドはメイソウが初めてだったわけではない。それらはもともと一定の勢力を誇ってはいたが、逆に「偽日系」と呼んで忌み嫌う人がいたことも事実だ。中にはもちろん、真面目に日本由来の技術や素材などを生かして展開するブランドもあったが、数や売り上げから考えるとどうしても少数派になってしまう。メイソウが最初10元(約200円)ショップであったように、基本的に安さを売りにすることが多い偽日系ブランドは、そうした意識の高い人々からのツッコミや多少の炎上を恐れず、割り切ってビジネスを行ってきた。

 最近の例では21年に飲料大手の「農夫山泉」が白桃風味のソーダ水を発売した際、「福島県原産の白桃『あかつき』を使用」と思わせる宣伝を行い、あっという間に大炎上した事件が有名だ。実際はいわゆる「風味」飲料でしかないのにあたかも果汁を使用しているかのように思わせる手法は中国以外でもよく行われるが、その手口の姑息さだけでなく、東日本大震災に起因する原発事故の関連でいまだ産品の輸入が許可されていない福島県の桃使用ということで消費者の怒りを買った面もある。とはいえもともとは「日本の果物はおいしい」というイメージが共有されているからこそ、こうした手法を使ったともいえる。

農夫山泉が発売した白桃ソーダ水の当時の宣伝。「白桃あかつきは福島県産」と書かれているが、確かにその果汁が使われているとはどこにも書かれていない
農夫山泉が発売した白桃ソーダ水の当時の宣伝。「白桃あかつきは福島県産」と書かれているが、確かにその果汁が使われているとはどこにも書かれていない

 より知名度の低いメーカーの商品では、おそらく実在しない「博士」や「匠」を名乗る謎の人物を起用するのもよく見られる手口だ。少しでも日本語が分かれば違和感を持つようなものだが、そもそもそうした層が相手のビジネスではないのでそれでよいのだろう。とはいえこれも医薬品の宣伝で俳優に白衣を着せる、一昔前の欧米や日本でよく見られた優良誤認誘導(現在は業界団体のガイドラインなどによって多くが事実上規制)と同じ手法だ。

 前述の農夫山泉だけでなく、新興の飲料メーカーとして名を馳せる「元気森林」もまた、もともとは中国語簡体字ではなく日本語漢字の「元気」をブランド名にしていた上「日本の株式会社元気森林が監修」とパッケージに表記していた。しかし20年に商品名が北海道を思わせる「北海牧場」という飲料を発売した際、「広島大学植物乳酸菌研究所の特許使用」などとあからさまに誤認を狙った上(この「研究所」は実在するものの広島大学発のベンチャー企業であり、しかも協業ではなく単に特許を使用しただけ。商品自体も北海道と当然無関係)、「ショ糖無配合」という表示も無糖飲料と誤認させる表示だったとして大炎上を経験した。その年の内にロゴを簡体字に変更し、以来日系要素の代わりに「国産」を訴える戦略に切り替えたといわれる。22年8月に無糖コーラを発売した際も「国産」を前面に打ち出した宣伝を行ったのは、近年中国で盛り上がる「国潮」と呼ばれる国産ブランド愛好運動の勢いを借りようという腹づもりだろう。

元気森林は以前、日本の漢字を使用(上)、8月に発売された「国産」無糖コーラは物議を醸した
元気森林は以前、日本の漢字を使用(上)、8月に発売された「国産」無糖コーラは物議を醸した

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