3月8日は「国際女性デー」だ。日本ではあまり知られていないが1975年に国連が定め、その歴史的経緯から旧社会主義国を中心に国によっては祝日とされることもある。中国でも女性には半日の休暇が与えられ、同時に「女神節」と呼ぶ大規模なセールが行われる定番の日でもある。その女性デーを前にした2月24日、微博(ウェイボ)上でまた大きな騒ぎが起きた。人気の男性バラエティータレントの李誕(リー・ダン)が配信した「帯貨(ライブコマース)」が問題だというのだ。彼は微博上で公開した動画の中でなぜか女性向けのブラジャーを売っていた。

微博の投稿(既に削除済)で彼はそのブラジャーを「働く女性が職場で寝ていても勝てるようにする装備」と評した。もともとはネットゲームでチームを組んで戦う際「味方に非常に強いプレーヤーがいるおかげで自分は寝ていても勝ててしまった」「または相手が弱すぎて寝ていても勝てる」といった場面で使われていたネットスラングだ。
これが女性たちの怒りを買った。みんな我慢しながらストレスが多い職場生活を過ごしているのに「このブラをしていれば寝てても勝てる」とは女性を何だと思っているのか、ふざけるにもほどがある、というわけだ。結果、当日中にリー本人と宣伝を依頼したUbras双方が謝罪文を公表する事態になった。
Ubrasは2016年に創業されたスタートアップだ。伸縮性の強い素材を使ったノンワイヤでフリーサイズのブラジャーを販売している。既に大手ベンチャーキャピタル(VC)であるセコイア・キャピタルとキャピタルトゥデイ(今日資本)から数億元の資金を獲得している。2020年の「天猫双11」お買い物デーでもトップの3億元(約49億円)を売った、いま業界でもっとも勢いのあるブランドだ。有名タレントでチェリストの欧陽娜娜(ちなみにあの欧陽菲菲のめいでもある)がアンバサダーを務めるなど宣伝も派手で、認知度も高い。
「熱い」女性向け下着市場のトップブランド

中国の女性向け下着市場は07年からの10年間で3倍程度と急速に成長しているが、低価格帯中心の国産と中高価格帯中心の外国ブランド、計3000ブランド以上が入り乱れての激戦が繰り広げられ、業界トップの「都市麗人(Cosmo Lady)」ですら3%程度のシェアしかない。日本や米国といった成熟市場ではトップブランドが20%以上のシェアを握ることを考えると序列が固定化する前に先手を打つのが重要という思惑なのか、19年末からの1年余りの間にUbrasを含む1億元超えの大型投資が4件も成立している。一方で19年に2175社あった企業がたった1年で800以上消滅するなど、淘汰もまた激しい。
本稿の話題の本筋から少しそれるが、このUbrasの「戦略」は少なくとも外部から見た限りでは相当に危うく映る。女性向け下着はファッション性ではなく機能性や着心地を重視するのが世界的トレンドとされる。Ubrasがとっている素材機能性訴求のポジショニングはそのトレンドには合致しているものの、本来これは研究開発(R&D)や量産設備への投資余力があり経験豊富な運営チームを持つ大手にとって有利なはずだ。だから日米ではシェアがトップ数社に集約されるのだ。
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