京都府舞鶴市の取り組みはもう少し大胆で、「橋を壊していこう」だ。明治政府によって海軍鎮守府が置かれ近代化を遂げたこの街も、近年は年間約1000人のペースで人口が減り、19年には戦後初めて8万人を割り込んだ。

 5万人台まで落ち込むと予想される40年を念頭に、市では町の規模や機能を3分の2にしようと、「足し算」ではなく「引き算」の都市計画を進める。

橋を壊すのも「地方50年の計」

 その具体化の筆頭が市道にかかる橋の撤去だ。これまでの5年間ですでに減らした橋の数は30カ所程度に上る。将来的には800以上ある橋を600程度までに減らす計画を立てている。

 無論、作業は丁寧に遂行し、う回路がごく近くにあるかなど「必要性が低い橋」のピックアップから始め、老いを見極めながら葬る。舞鶴市建設部長の矢谷明也氏は「少なくとも50年単位の仕事になるだろう」と話す。

 21年には撤去する橋を具体的に公表する予定だが、住民の日常生活に近い政策だけに市民からは強い反発も予想される。これまでのケースでも住民向けの説明に1年以上を要するのがざら。それでもなお、現時点で縮小の道筋を立てるのは、「人口減少や財政状況がさらに行き詰まるのは目に見えている。意見集約にかかる将来コストだけでも減らしておきたい」(矢谷氏)。そんな危機意識が背中を押す。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

 このコロナ禍にあって、テレワークの浸透をにらみ、全国の自治体はこぞって都市部からの移住者を増やそうと助成金を打ち出している。だが、こうした流れに「日本全体で減っていく人口を取り合っても意味がない」と冷ややかな視線を送る首長がいる。豊田市と同じ愛知県の東部に位置する新城市の穂積亮次市長だ。

 人口減の現実は新城市も例外でなく、10年前に5万人だった人口は現在、4万5000人を割り込んだ。14年には、安倍晋三政権下で日本創成会議が示した「消滅可能性都市」(通称・増田ペーパー)に、愛知県の市として唯一挙げられた街でもある。

 穂積氏の考えはこうだ。「若者に出て行くなと言っても、都会が魅力的で出て行くのは仕方がないこと。移住のために補助金を出しても効果は一時的だ。人口流出を深刻に捉えて囲い込むことに意味はない」。どこか達観している。「むしろ人口の流動性を高めて、外に出やすく、外からも入ってきやすい地域を目指すほうが地域の力を高めることになる」と強調する。

 穂積氏は急速に進む高齢化をも前向きに捉えている。「高齢者は地域経済にとってプラス」と言ってはばからない。一般的に、高齢化率が上がるほど、医療や介護などで若年層の負担が高まり、世代間のギャップや亀裂、分断が生じやすい。だが穂積氏に言わせれば、「高齢者が多い新城市のような地域にとっては、国が管理する年金という”域外からの収入”で成り立っている」。

 実際に地元の金融機関に聞くと、年間の年金支給額は市の予算や市内の企業の収入とほぼ同じ規模に上ると分かった。だから、若者を若者をと連呼し、はやりの政策に手を出すより、高齢者がもっと街の活力になる方策を優先すべきではないか。そう考える。

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