食に関するビジネスへの投資が世界で急拡大している。人口増加と歩調を合わせて食分野の市場は拡大を続けており、「魚の陸上養殖」や「食肉の人工培養」など革新的な技術の誕生に併せて「フードテック」という言葉が広まりつつある。その潜在力はすさまじい。米国のフードテックイベント「スマートキッチン・サミット2017」では、食の新技術に関する市場が2025年には700兆円規模に達するとの予測が飛び出した。食の未来はどうなるのか。コンサルティング会社シグマクシスのディレクター、田中宏隆氏に話を聞いた。

シグマクシスディレクター。「スマートキッチン・サミット・ジャパン」主催。パナソニックを経てマッキンゼー・アンド・カンパニーでハイテクや通信業界を中心に成長戦略立案・実行、M&A、新事業開発、ベンチャー協業などに従事。2017年、シグマクシスに参画。食を起点とした事業共創エコシステムを通じた新産業創出を目指す。共著に『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』(写真:都築 雅人)
「フードテック」というキーワードの広がりと同調して食に関する新システムや新技術が世界各地で続々と生まれています。この潮流はいつ始まったのでしょうか。
田中宏隆氏:「フードテック」という言葉が生まれる前から、各国で食の社会課題の解決を目指す動きは続いていました。その流れが大きく動き始めた背景には、家電製品の進化があります。家電はデジタル技術と融合して飛躍的な進化を遂げました。今日は家電と住まいが融合するスマートホーム、コネクティッドホームが実現し始めています。キッチンなど食の空間が情報機器と結びつくことで、多くの人々が食への関心を新たにしました。インターネットでレシピを調べて料理を楽しむ層が増えたからです。料理に不慣れな人でも便利な調理器具がおいしく料理してくれる。こうした技術の変化が食に対する関心を高めるきっかけになりました。
食は健康に直結します。バイタルセンサーなどで身体の状態をチェックする電子機器も増えているので、健康に対する意識も高まっています。食に対する関心が一段と高まるのも当然でしょう。そこで、ずっと以前から存在した食の課題に再びスポットが当たりました。例えば、二酸化炭素(CO2)排出などを低減した環境配慮型の食肉生産や、残った食料を大量廃棄するフードロスなどです。こうした課題はこれまで「解決が難しい」とされてきましたが、今日の技術があれば対応できるのではないか。世界の企業がSDGs(持続的な開発目標)を掲げる中、食の社会課題も技術で解決しようという機運が高まったのです。
フードテックの盛り上がりは世界的な潮流と考えてよいのでしょうか。
田中氏:15年にイタリアで開催されたミラノ国際博覧会では食がテーマとなりました。この万博をきっかけに、同国は世界最大級のフードイノベーションに関するサミット「Seeds & Chips(以下S&C)」を毎年開催しています。このイベントには各界の要人が参加しており、17年には米前大統領のバラク・オバマ氏がキーノートスピーカーを務めました。翌18年には米スターバックスのハワード・シュルツ元会長が参加、19年にはイタリアのジュゼッペ・コンテ首相も登壇しています。参加者5000人ほどのカンファレンスに一国の首相が参加する。フードテックはそれほど重要なテーマになっているのです。
企業もこうしたトレンドに呼応しています。グローバル食品大手に限らず、米国のグーグルやアマゾン、韓国のサムスンやLGなど多様なプレーヤーがフードテックに関する国際カンファレンスに早い段階から参加しているのです。企業は次の成長の種を探すのに躍起になっていますから、あらゆるアンテナを張ってイノベーティブなベンチャーを探しているのです。そうして食の課題の解決に取り組む有望なベンチャーのスポンサーとなり、共に社会課題の解決に取り組む動きが盛んになっています。
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