「すぐに行動を起こさなければ何億人もの子供と大人に長期的に影響を与える世界的な食糧危機が差し迫っている」。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は6月、世界に向けてメッセージを発信した。新型コロナウイルスで景気の悪化が続き、8億2000万人以上とされる飢餓人口が急増する可能性を危惧した。

10月24日、イエメンのアムラン県でソルガムの茎を食べるサバクトビバッタ(写真:新華社/共同通信イメージズ)

 食糧危機と言われても切迫感はなく、いつも聞いていることのように感じるのではないだろうか。「飢餓と食糧安全保障は地球的規模の問題であり、世界人口の増加等に鑑み、緊急に一致した行動をとることが必要である」(1996年、世界食糧サミットのローマ宣言)「2030年までに食料生産を50%増やさねばならない」(潘基文国連事務総長、2008年当時)。国連をはじめとする国際機関は飢餓の撲滅と食料の安定供給を訴え続けてきた。

 それでも日本の家庭の食卓は豊かだから、日本人は実感が湧かない。先進国はどこも同じだ。アフリカの一部の地域の話で、自分とは関係ないと思い込んでいる。

 だが、今回のグテーレス事務総長の声明はこれまでとは異なるものだった。飢餓にひんした国の実態に懸念を示す一方で「食料が豊富な国でも、サプライチェーンに混乱が生じるリスクがある」と言及したのだ。先進国の多くの人が好きなものを好きなだけ食べられる飽食の時代。新型コロナの余波で、その終わりが近づいているのだろうか。

食料の生産エリアが偏っている

 「食料自給率の低い国が安定調達への懸念を高めた」。住友商事グローバルリサーチの小橋啓シニアアナリストは、農業大国の自国優先の動きを振り返る。ロシアが4月、不穏な動きを見せた。

 世界の輸出量の約2割を占める小麦のほか、ライ麦、大麦、トウモロコシについて4~6月の輸出の上限を700万トンとする割当制を導入し、輸出量を制限した。国内の穀物価格上昇を抑えることが目的で、同じく小麦輸出大国であるウクライナも輸出量の上限を設定。他国でも鶏卵や大豆などで輸出規制の動きが広まった。

 世界の穀物生産量が8年連続の豊作となる中で、輸出制限の規模はいずれも限定的。食糧供給網を直ちに脅かすようなものではない。しかし、コロナの感染拡大による輸送力の減少と相まって、一連の動きは穀物の生産が一部の国に偏っている実態を再認識させるのには十分だった。輸出大国のさじ加減一つで、食糧不足が起こりうるという漠然とした不安を、日本を含む先進国にも与えた。

 今年は年初から、世界的な食糧危機を連想させる自然現象が伝わっている。アフリカから南アジアにかけてのバッタの大発生。過去をさかのぼると旧約聖書の出エジプト記でもバッタによる農作物への被害、蝗害(こうがい)は「十の災い」の1つに挙げられている。それが今年、ケニアでは過去70年間で最悪、インドでも30年ぶりと言われるほど大規模に発生した。

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