「力強い四半期となった」
10月29日、米グーグルCEO(最高経営責任者)のスンダー・ピチャイ氏は、アルファベット(グーグルの親会社)の2020年7~9月期の決算を受けて、その手応えをこう語った。
好決算の要因は主力のデジタル広告収入が持ち直したことにある。新型コロナウイルスの影響で4~6月期は売上高が上場以来初の前年割れだったが、今回は前年同期比14%増。広告収入以外にも、巣ごもり需要で「YouTube」やクラウドサービスが好調だった。
グーグルと合わせ「GAFA」と呼ばれる米アップル、米フェイスブック、米アマゾンも7~9月期はそろって増収だった。
電子商取引やクラウドサービス、SNSなどといったGAFAが展開する事業は、インターネット上で様々な情報やモノをやり取りするプラットフォームビジネスである。今やこれらのサービスは、コロナ禍で人と人との物理的な接触が難しくなる中、なくてはならないものとなった。
アップルは在宅勤務に必要不可欠なデバイスの売り上げが伸びた。自宅にいながら仲間とコミュニケーションできるSNSは重宝され、フェイスブックの月間利用者数は3カ月前と比べて4000万人増えた。コロナの影響で小売業や飲食店がオンライン販売に舵(かじ)を切ったことも、広告出稿の追い風になった。マーク・ザッカーバーグCEOは「人々がつながりを維持し、経済的な機会をつくり出すために当社のサービスに依存し続けている」と、フェイスブックの存在意義を強調した。
そしてアマゾンは、外出自粛となった人々が日用品から生鮮食品まで、あらゆる物資を調達できる重要インフラとなっている。コロナ禍で通常は7月に開催する「プライムデー」と呼ばれる大型販促イベントを10月に延期ししたが、7~9月期の売上高はプライムデーなしでも前年同期比で37%増と過去最高の成績だった。世界的に新型コロナの感染拡大が再び目立ち始める中で迎える年末商戦は、より一層「アマゾン依存」が強まるだろう。
巨額の投資でイノベーションを引き起こし、顧客のニーズを満たすサービスを創造して巨額の利益を得る──。GAFAはこの好循環を繰り返して成長してきた。新型コロナで多くの企業が不振に見舞われ、事業規模の縮小に走る中でも、GAFAのこうした勢いは変わらない。いや、むしろ強まっているといってもよいだろう。
GAFAのR&D(研究開発)投資額は、コロナ後も増加を続けている。今年9月までに4社が投じた研究開発費は787億ドル(約8兆2700億円)と、前年同期比で約17%増えた。その額はミャンマーのGDP(国民総生産)を上回る規模である。
事業拡大に向けて、企業買収にも余念がない。下の表はGAFA4社が20年度上半期に買収した主な企業だ。企業の事業内容はクラウドサービスからゲーム、VR、そして自動運転と多岐にわたる。とりわけ熱心なのがアップルで、これまでに8社を買収した。コロナ禍で企業価値が下がったところをチャンスと見ているようだ。
コロナショックで多くの企業が人員削減に手を付け始めているが、GAFAは雇用面でも貢献している。アマゾンは3月に、EC需要の急増を受けて、米国内の物流拠点や小売店を中心に新たに10万人を追加で雇用すると発表した。
これだけではない。映画の興行収入が軒並み減少したハリウッドでは、興味深い現象が起こっている。ハリウッドでは製作費用の高い映画作品にまつわるプロジェクトがとん挫する事態となっているが、ここで働くVR(仮想現実)・AR(拡張現実)アーティストたちが、こぞってシリコンバレーで働き始めているのだ。
彼らは主に、映画におけるコンピューターグラフィックを駆使したデジタル効果技術を手がけてきた。こうした技術が、GAFAが実用化を目指すAR/VRアプリケーションやハードウエアの開発に生かされているというのだ。より五感を駆使したリアルな複合現実空間を構築する技術が完成すれば、消費者に新しい体験やサービスを提供することができる。
GAFAはコロナ禍を機に、次世代に役立つ人材を獲得しているといってもよいだろう。コンサルタント会社アクセンチュアの試算によれば、米IT企業はARとVR技術に約210億ドルを投資する見込みだが、この数字は3年後の23年には現在の6倍弱となる1210億ドルにまで膨らむ可能性があるという。
東証1部全上場企業の時価総額を抜く
皮肉にもコロナショックは、巨大なGAFAをさらに「焼け太り」させている。4社の時価総額は、米国を代表するS&P500種株価指数の時価総額の15%を占める。4社に米マイクロソフトを加えた時価総額の合計は今年4月、560兆円となり、日本の東証1部上場企業の時価総額を超えた。
外出自粛で人々の行動範囲が狭まる中、GAFAが提供するサービスや製品に依存せざるを得ない状況が、GAFAを勢いづけている。検索窓に打ち込まれたデータや買い物履歴、SNSで「いいね」を集めた投稿──。GAFAのもとには人々がサービスを使えば使うほど、次のビジネスの「種」につながるデータが集まる。それは、他の事業者の参入機会を奪うことにもつながっている。
一国の経済力に並ぶ資本と影響力を持つGAFAに対し、市場を独占していると国や規制当局の風当たりは年々強まる。自国企業保護の観点から規制に慎重だった米国も、公正な競争が阻害されていると方針を変え始めた。司法省、連邦取引委員会(FTC)、米議会下院司法委員会など、複数の当局が19年以降、同時に調査を進めてきた。
その象徴的な出来事が、7月29日に開催された、下院司法委員会による公聴会だろう。公聴会はオンラインで開催されたが、出席したGAFAのトップたちは議員たちからの激しい攻撃や批判にさらされることとなった。
グーグルは検索サービスでの圧倒的なシェアを武器に競合を排除していること、アップルはアプリ配信サービスのアップストア上で競合アプリが不公平な扱いを受けていることが批判の対象となった。フェイスブックは過去の企業買収が競合つぶしの目的で実施されたのではとの指摘がなされた。そしてアマゾンは、ネット通販サービスに出品する外部事業者の販売データを不正利用していたことが問題視されている。
10月には米司法省がグーグルを検索事業に関して反トラスト法違反の疑いで提訴した。「GAFA包囲網」は確実に狭まっているといえよう。
各国の規制は、大きく分けて「反トラスト法」「個人情報保護」「デジタル課税」に分けられている。
もっとも、こうしたGAFA規制の枠組みには課題も多い。例えば消費者利益と価格支配力を市場の独占・寡占の判断基準としてきた従来の反トラスト法でGAFAを規制するには限界がある。消費者は検索エンジンやSNSなどを無料で利用している。他の競合へ乗り換えるのも自由だ。このような状況のもと「消費者が特定のサービスを使わざるを得ない状況を生み出し、データを収集することで他の事業者が公正に競争できない環境をつくり出している」強力な証拠をどう集めるのか。
個人情報保護などのデータ規制に関してもジレンマが残る。欧州では個人情報等を域外に持ち出すことを禁じるEUの一般データ規制(GDPR)が施行されたが、行き過ぎた規制はイノベーションの阻害につながるとの懸念の声は米国や日本では依然根強い。各国の利害も絡むだけに足並みがそろわず、結果的にグローバルで事業を展開するGAFAに対して有効な制裁手段となっていないのが現状だ。
デジタル課税をめぐっても、同様の状況に陥っている。デジタル課税とは、GAFAがインターネットを通じてビジネスを世界展開し、各国で莫大な収益を得ているにもかかわらず、物理的な拠点を設けていないことを理由に、各国に法人税を納めていない批判から生まれたものだ。経済協力開発機構(OECD)では、2021年半ばにも国内に物理的な拠点がなくても利益を計上していれば課税できる枠組みを作ろうとしているが、自国の産業保護政策の観点から、米国はこうしたルール作りに反対している。欧州と米国の温度差は大きく、結果的に、足並みのそろわない状態がGAFAを利することにつながってしまっている。
GAFA間で起こる「越境」
各国の規制当局の動きをしり目に、GAFAは着々と次の手を打ち始めている。最近、目立ち始めているのが、GAFA同士が互いの主力事業に乗り込む「越境」だ。
例えばフェイスブックは事業の多角化を目指すべく、EC事業を強化しようとしている。5月には企業が商品の写真や価格を入力すれば簡単に「オンラインショップ」が開けるサービスを開始した。また、インドの携帯電話大手ジオ・プラットフォームズに57億ドル(約6190億円)出資し、同国のEC市場の開拓を進めることも明らかにしている。アマゾンを意識しているのは明らかだ。
一方でアップルが狙うのはグーグルの領域だ。英フィナンシャルタイムスは10月28日、アップルがグーグルに代わる独自の検索エンジンの開発に向けて活動を活発化していると報じた。最新のiPhone端末向け基本ソフト(OS)の「iOS14」にて、アップル独自の検索エンジンを搭載している形跡が見られるという。18年には、グーグルで検索エンジンの開発に関わっていた幹部を引き抜くなどの動きからも、アップルが検索事業を強化しようとしているのは間違いない。
こうした巨大IT企業同士が互いに攻め合う背景には、規制の手が及ぶ中で事業を多角化しリスク分散しておきたいとの思惑も働いている。フェイスブックやグーグルは広告収入への依存度が高い。一方アップルは、アップストアに代表されるアプリストアからの収入増を目指すも、依然としてハードウエアの販売で収益を稼いでいるのが現状だ。
そんな中、最も「リスク分散」できているのがアマゾンだろう。EC事業以外にもAWSと呼ばれる企業向けクラウドサービスや、動画サブスクリプションなど、事業の多角化が成功している。次回は、収益を次の投資へと注ぎ込むことで事業領域を拡大してきたアマゾンの実像に迫る。
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