「あの日の午後、私は完全に同意していなかった。だからずっと泣いていた」「自滅する覚悟であなたとの間の事実を明かす」
中国の有名女子テニス選手、彭帥氏は11月2日、中国共産党元最高指導部メンバー(中央政治局常務委員)で中国元副首相の張高麗氏から性的関係を強要されたことを、ソーシャルメディア「微博(ウェイボ)」上で公表した。彭氏は女子ダブルスの元世界1位で四大大会でも2度の優勝経験を持つスター選手だ。


彭氏が最初に関係を迫られたのは、張氏が天津市トップだった頃とみられる。2012年に張氏が党中央政治局常務委員になり、最高指導部に入ると彭氏に連絡をしなくなった。18年、常務委員を退いた張氏は彭氏に再び連絡し関係を持つようになる。
今年10月末に2人はけんかをし、11月2日に話し合いをする約束だったという。しかし彭氏は、張氏が一方的に話し合いを延期したことに腹を立て、同日夜に告発文を投稿した。彭氏は、当初の関係は自分の意志によるものではなかったとしている。20歳そこそこの女性が中国の体制の中で要職に就いている権力者に迫られれば、選択の余地は事実上なかっただろう。
彭氏は、中国で権力者を告発することが意味するところを十分に理解した上で行動しているはずだ。真偽については不明だが、こうした問題は中国の法体系においてもきちんと調査されるべき内容である。例えば、今年8月にアリババ集団の女性社員が性的被害とその告発に対する会社の対応の不備を訴えた際には、当局による厳重な調査が行われて中国共産党系メディアや国営メディアが大々的に報道。アリババや告発の対象となった男性らは袋だたきに遭った。
ところが今回の一件について、中国メディアは沈黙している。彭氏の投稿はすぐに彼女のアカウントごと削除された。ネット上では「彭帥」と「張高麗」という文字を個別に検索することはできるが、セットで検索すると結果が表示されない。中国外交部の記者会見で外国メディアが何度質問しても、報道官は「これは外交問題ではない」と繰り返し続けた。中国本土での報道は今も1件も確認されていない。
国際社会がさらに衝撃を受けたのは、彭氏の安否が確認できない事態になったことだ。当局による拘束もしくは軟禁状態に置かれているのではという懸念が高まり、セレーナ・ウィリアムズ選手や大坂なおみ選手、男子のトッププレーヤーであるノバク・ジョコビッチ選手などが相次いで懸念や抗議の意志を表明。女子テニス協会(WTA)のスティーブ・サイモン最高経営責任者(CEO)はこうした事態を受けて「(巨大市場である)中国市場からの撤退も辞さない」と発言している。
米中対立でも強気一辺倒の姿勢を崩さず「戦狼外交」を繰り広げてきた中国政府。だが、22年2月に北京冬季五輪の開幕を控えるタイミングで、スポーツ界からも猛烈な抗議が出たことで大きく揺さぶられた。五輪開催に支障が生じれば、22年秋の党大会で異例の3期目続投を目指す習近平指導部の威信に大きな傷が付く。
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