「7月7日午後10時に製品を発表する」。そんな予告広告を出したことで、100万元(1800万円)もの罰金を支払うことになるとはソニーグループにとって予想外のことだっただろう。

 84年前の7月7日夜、日中戦争開戦のきっかけとなった「盧溝橋事件」が起きた。ソニーが新型カメラを発表するという予告広告を出したのは6月30日。中国のネット上では、日本企業が盧溝橋事件勃発と同じ日時にタイミングを合わせて製品発表するのかという批判が殺到。ソニーは予告広告を出した翌日の7月1日に広告を削除して謝罪した。

 この騒動を受けて北京市朝陽区の市場監督管理局は10月12日、ソニー中国法人に罰金を科した。国家の尊厳や利益を損なう内容であり広告法に違反している、というのがその理由だ。ソニー中国法人は「皆様にいただいたご進言を真摯に受け止め、ソニー中国法人は罰則の決定を尊重し、協力して参ります。関係省庁のご指導の下、同様のミスの再発を予防するために運用プロセスを徹底的に見直し、改善致しました。今回の事例を、今後の日常業務の中で適切な予防策を講じるための教訓として参ります」とコメントした。

 中国メディアはソニーの過去の製品発表についても掘り返した。2020年7月7日の夜にカメラ用レンズの新製品を発表しており、19年12月13日にはイヤホンの新製品を発表していたといった具合だ。12月13日は南京で日本軍が非戦闘員を多く殺傷したとされる「南京事件」が起きた日である。こうした複数のメディアに転載されたが、ソニー中国のサイトではイヤホンの発表日は10日、発売日は12日になっている。

 中国に進出している日本企業は、「今までそれほど問題視されなかったことが、大きな問題として扱われるようになっている」点を、危機管理として認識しておくべきだろう。歴史的に被害感情を持つ出来事を加害国企業が軽視していると感じれば、現地の反発が生じるのは自然なことで、これまでも「敏感な日」は避けた方がよいというのが基本だった。だが、今回ソニーは製品を発表すると予告しただけで、しかもすぐに誤りを認め謝罪の上で取り下げている。それにもかかわらず政府当局はさらに罰金を科してダメ押ししている。

 背景には中国国内の愛国心の高まりがある。以前から反愛国的な事例を探し出してネット上で広めようとする人はいたが、多くの人々が共感しなければ「炎上」には至らない。中国政府は近年、愛国心を鼓舞しつつ反体制的な言論への統制を強めてきた。習近平国家主席は2022年秋の党大会で異例の3期目を目指して引き締めを図っており、この流れが変わる可能性は低い。

(写真:ロイター/アフロ)
(写真:ロイター/アフロ)

 他国でビジネスを行う企業が、その国の歴史をよく知り、現地の人の感情を害さないように振る舞うことは基本だ。だが、日中間においては近現代において長期間かつ多くの地域で複雑な歴史があるため、すべてを把握するのは現実的ではない。

 そこで、中国における日本企業のマーケティング活動を支援するエーランド代表の安田加奈子氏の協力を得て、日本企業が対外活動をする際に特に注意すべき日をまとめた。

 プレスリリースや新商品発表などは、事情がない限りは基本的には避けた方がよい日と考えてほしい。「特に重要度が高い日については当日を含めて前後2日、もしくはその週はイベントを避けた方がよい。特に8月から10月の国慶節にかけては敏感な日が多く、派手な動きは控える方が無難だ」(安田氏)

 リストアップした日以外でも、表現やタイミング、文脈によって思ってもみないところで足をすくわれる可能性がある。国家間の緊張関係が高まっているときはなおさらだ。対外メッセージを発信する前には、できる限り広報の専門家や中国人スタッフなどに発表タイミングや表現をチェックしてもらうようにしてほしい。