脱炭素で世界のリーダーとしての態度を取るように

 自動車のような技術力とブランド力を必要とする工業製品で、地方都市の中国企業からヒットが生まれるようになってきたことは何を意味するのか。

 高度な技術が要求される内燃機関を、モーターで代替できるようになったことが中国国内での自動車開発のハードルを下げたのは事実だ。もちろん、日米欧の自動車メーカーとの合弁などで数十年間にわたって技術を蓄積してきたことが根底にはある。

 加えて、中国国内の深刻な大気汚染が新エネルギー車の普及を必要不可欠なものとした。EVであれば外資でなく中国メーカーにも勝機があるという打算もあり、中国政府はEVを自動車産業政策の中核に据えた。

 その結果、「EVバブル」とも言えるようなメーカーの乱立が起き、中には経営難に陥る企業も出てきている。その一方で、国有大手の自動車メーカーだけでなく、上汽GM五菱のような企業も育ち始めている。

 過剰にも思えた中国のEV重視の産業政策だったが、世界的に加速している脱炭素の流れがこれを後押ししている。もともと環境問題に敏感な欧州に加えて、米国はバイデン大統領がパリ協定に復帰するための文書に署名した。

 日本も菅義偉首相が所信表明演説で50年までに脱炭素社会の実現を目指すと表明した。世界規模の脱炭素の流れを受け、スズキの鈴木修会長はクルマの電動化について本誌の取材に対し、「地球環境を守る。全産業を挙げて戦うしか、仕方がない」と語っている。

 そんな中、世界最大のCO2排出国である中国は環境問題に率先して取り組むリーダーのごとく振る舞うようになってきている。

 20年9月、習近平国家主席は国連での演説で「2060年までに(CO2排出量実質ゼロの)カーボンニュートラルを目指す」と述べた。同12月には「国内総生産(GDP)当たりのCO2排出量を30年までに05年比で65%以上削減する」とさらに踏み込んだ。

 脱炭素の流れを受けて、中国のEV熱はますます高まっている。上海では昨秋以降、新エネルギー車の「特需」が起きた。上海市交通当局が、上海ナンバー以外のクルマに市内の一部高速道路を使わせない規制を入れる方針を打ち出したからだ。「ガソリン車のナンバーの新規取得は100万円以上かかる。この機会にナンバーが無料の環境対応車を購入しようとする顧客が増えている」(上海市内の自動車販売店)

 配車サービス大手の滴滴出行(ディディ)は中国EV大手のBYDと提携し、湖南省長沙市で配車専用EVの生産を始めた。関係者は「湖南省政府が全面的にバックアップしており、タクシーなどでも採用していく計画だ」と明かす。滴滴出行の程維・董事長兼最高経営責任者(CEO)は、30年には完全自動運転「レベル4」対応車を投入する構えだ。

滴滴出行(ディディ)とBYDは共同開発車を生産する(長沙市)
滴滴出行(ディディ)とBYDは共同開発車を生産する(長沙市)

 世界で加速している脱炭素の流れに加えて、世界最大の自動車市場でもある中国がコロナ禍からの経済回復で世界をリードしていることも、各国の自動車メーカーをEVシフトへと駆り立てる。20年9月下旬から開催された北京国際自動車ショーでは各国のメーカーが新エネルギー車を展示した。

 脱炭素について、日本自動車工業会の豊田章男会長は「日本は火力発電の割合が大きいため、自動車の電動化だけではCO2排出削減につながらない」と指摘した。中国には原子力発電の積極推進が可能という強みもあり、クルマの電動化を進めれば進めるほど環境面でのメリットを得やすい。世界最大の市場でEV化が進んだときに何が起きるのか。

 かつて米国の環境規制に対応してCVCCエンジンを開発したことで、ホンダは一気に販売台数を拡大し世界大手へと飛躍した。中国の中小メーカーの躍進は、日本企業が成し遂げた自動車産業での成長の道筋を想起させるものだ。中国で進む電動化の流れにいかに対応していくかが、日米欧のメーカーの将来を左右することは間違いない。

この記事はシリーズ「広岡延隆の「中国ニューノーマル最前線」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。