物流もいち早く新常態に

 消費意欲旺盛な市民が多い長沙市に拠点を置く小売企業の中でも急成長しているのが、生鮮食品の通販を手掛ける興盛優選だ。現在、中国で注目を集める「社区団購」と呼ばれるビジネスモデルの代表的企業の一つである。中国の都市部では、社区と呼ばれる日本の団地のような集合住宅に住むのが一般的だ。社区団購の基本的な仕組みは、社区単位でまとめて商品を発注し、その商品を届けてもらうというものだ。アリババ集団も社区団購を手掛ける企業に投資し、食事宅配大手の美団点評は自ら参入を表明した。

興盛優選は社区に隣接した小規模店に生鮮食品を届ける
興盛優選は社区に隣接した小規模店に生鮮食品を届ける

 興盛優選は20年12月、中国EC(電子商取引)大手の京東集団から7億ドルの投資を受け入れた。その前にはIT大手の騰訊控股(テンセント)や米投資会社のコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)、セコイア・キャピタルなどからも出資を受けており、評価額10億ドルを超える「ユニコーン」の1社だ。

 「夜の11時までにアプリやミニプログラムで注文してもらえれば、翌朝11時までに新鮮な食材を届ける」。興盛優選の陳国良総裁助理は、自社の強みをこう説明する。同社の成長の秘訣は、どの社区の近隣にも必ず存在する小規模店舗を活用している点だ。中国のスタートアップが疲弊する大きな要因の一つとして、広大な地域に広告をばらまかなければならないことが挙げられる。

 一方、社区密着の店舗は多くの住民が自然に利用する存在であるため、うまく使うことで認知度向上にかけるコストを浮かせることができる。さらに社区単位の集団購入でスケールメリットを出すのが基本戦略だ。

 今やスマホで頼めば何でも家まで持ってきてもらえるようになった中国だが、戸別配送には人手と経費がかかるのが現実だ。毎日利用する生鮮食品の購入にそのコストが乗ってくれば消費者には受け入れられない。そこで興盛優選は商品を届けるのは社区の店舗までとした。生鮮食品を消費者が取りに来ればついで買いを誘発できるため、店舗側の協力も得やすくなる。

 社区団購はコロナ禍によって中国社会における認知度が大きく高まった。新型コロナの感染拡大期、中国では住民が社区から出ることを制限された。そこで社区の入り口まで生鮮食品を届ける仕組みが、そのまま市民生活を支えるインフラとして機能したのだ。

 こうした小売市場の変革は、中国の物流インフラがここ数年で一気に整備されてきたことも大きい。

 昨年11月11日、中国最大のECセール。中国の物流網は11日間で23億2100万件(アリババ分のみ)もの注文を無事にさばききった。8年前の12年には、7200万個(同)の荷物のオーダーを処理しきれず、大混乱に陥っていたのに比べると格段の進化だ。

 物流網を進化させた立役者の一社が京東だ。同社が湖北省武漢市に構える倉庫では、食品などを棚ごと載せたロボットが床に張られたQRコードを読み取りながら動き回っていた。担当者は「作業効率は人手に頼っていた頃の3倍になった」と胸を張る。コロナ禍による都市封鎖期間中は人手が大幅に減った。その際、こうした自動化の仕組みを整えていたことが貢献したという。

京東集団が自動化を進める武漢市内の倉庫

 中国では、広い国土や遅れていた小売店の販売環境といった問題を解消するために、アリババや京東などが中心となってECを普及させた。スマホの普及とともにITの活用領域はさらに広がり、00年代以降、決済や物流など様々な領域でデジタルトランスフォーメーションが進んできた。コロナ禍はデジタル化などの時計の針を一気に進めたともいわれる。中国が新型コロナの到来を予見していたわけではないだろうが、自国の問題解決と欧米や日本に追いつくためにとってきた施策が、図らずもコロナ後の新常態(ニューノーマル)を先取りする形になっている。

 その結果、様々な分野の技術や制度、ビジネスの仕組みなどで中国がリーダーシップを取り、世界のスタンダードを決めるケースが増える可能性は大いにある。中国が世界の経済の覇権を握る未来は、着実に近づいている。そのとき日本はどう生きていくのか。

この記事はシリーズ「広岡延隆の「中国ニューノーマル最前線」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。