4年前、日経ビジネスは「もしトランプが大統領になったら…(通称もしトラ)」という連載特集を企画した。前回の米大統領選では当初、ドナルド・トランプ氏は民主党のヒラリー・クリントン氏に対し劣勢だった。トランプ氏がそこから巻き返し、仮に勝利したら何が起こるかを、各界の著名人や識者に予想してもらった。その後の結果は言うまでもない。「もし」をはるかに越えて、世界は変わっていった。

 トランプ大統領が新型コロナウイルスに感染するなど状況が混沌とする中、11月3日に迫った米大統領選で米国民はトランプ大統領とバイデン前副大統領のどちらを選択するのか。そして、その行方が世界、日本の未来にどう影響を与えるのか。今回も予想されるシナリオを聞いていく。

 初回は、米ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)に上席研究員として在籍したこともあり、日米やアジアの安全保障・外交に詳しい渡部恒雄・笹川平和財団上席研究員に「もしトランプが再選したら」を聞いた。  

今後の主な登場予定
・パトリック・ハーラン氏(タレント、パックン)「イラク戦争を始めたあのブッシュですら恋しくなる」
・石破茂氏(衆院議員)
・前嶋和弘氏(上智大学教授)
・シーラ・スミス(米外交問題評議会日本担当シニアフェロー)

渡部恒雄(わたなべ・つねお)氏
笹川平和財団 安全保障研究グループ 上席研究員
1963年福島県生まれ。88年東北大学歯学部卒業。95年米ニュースクール大学で政治学修士課程修了。同年、ワシントンDCのCSIS(戦略国際問題研究所)に入所。主任研究員などを経て2003年上級研究員。日本の政党政治、外交安保政策、日米関係およびアジアの安全保障を研究。05年帰国。CSISの非常勤研究員を、三井物産戦略研究所主任研究員を経て、09年に東京財団へ。同年10月に笹川平和財団に特任研究員として移籍。17年より現職。

トランプ大統領の4年間をどう評価しますか。

渡部恒雄・笹川平和財団上席研究員(以下、渡部氏):トランプ氏は2つの面で実績を上げました。1つは世界における米国の役割を縮小し、求心力を弱めたこと。アフガニスタンやイラクなどへの関与を減らしました。もう1つは米国内における伝統的な三権分立や法的手続きの尊重、そしてマイノリティーへの配慮などを軽視して、大統領権限を拡大した。

 これを実績と言うのは皮肉ではありません。彼自身が選挙戦で訴えて有権者がそれを選んだ。それを実行したから実績と言えるでしょう。野党やマイノリティーからすれば米国の民主主義の伝統を壊しているということになりますが。

 ただ、その代償は小さくありません。アフガニスタンやイラクへの関与を減らしたのは、米国にとって負担は減ったものの、世界の安定や秩序は壊れました。米国の負担減とともに世界が多極化の道に進んでしまったことは、コインの表と裏の関係です。

対中国では追加関税を課したり、米国内からの締め出したりするなど強硬な姿勢も見せました。中国にとってトランプ氏はどう見えたでしょうか。

渡部氏:むしろ、いい大統領だったのではないでしょうか。世界への関与を減らした結果、米国の求心力は弱まりました。アフリカや中東、中南米などには、中国の関与が高まりつつあります。一帯一路など、構想実現に向けて動きやすくなった。

 ロシアのクリミア併合や中国の香港に対する措置など、従来の米国なら秩序を維持すべく指導力を発揮してきたが、その力がなくなったことでやりたい放題になっています。世界はこの代償を払わないといけません。なかなか元の世界には戻れない。相当な時間がかかるでしょう。

米国の環太平洋経済連携協定(TPP)離脱はあったものの、日本への影響は限定的だったように感じます。

渡部氏:安倍晋三前首相がトランプ大統領と個人的な関係を強化した策がプラスに働いたのではないでしょうか。米国のTPP離脱はマイナスでしたが、結果的に「TPP11」をまとめて存在感をアピールした。「災い転じて福となす」ですね。

 トランプ氏との親密な関係は不興を買ってもいいはずなのに、TPP11や日欧経済連携協定(EPA)をまとめたことで、世界の自由貿易秩序を維持したいオーストラリアや欧州からの評価も高まった。日米間の交渉も、農産物の関税引き下げをTPPレベルにとどめてうまく米国の圧力をかわした。積極策が奏功しました。

9月29日に開かれた初回の大統領選テレビ討論会は過去3番目となる約7300万人が視聴した(写真:ロイター/アフロ)

トランプ政権の4年を振り返ったところで、本題の「もしトラ」に移りたいと思います。トランプ大統領が再選した場合、どのような未来を想像しますか。

渡部氏:世界の分断がより拡大し、多極化が進むでしょう。

 1945年以降、米国は強力な軍事力と経済力を背景に、民主主義に基づいたルールや規範作りで世界をリードしてきました。そのルールを守らないとそれなりの制裁があります。こういう既存のルールを各国がリスペクトして、指導力のある米国が欧州や日本を巻き込んで世界を抑制してきましたが、トランプ大統領はそれを壊しつつあり、求心力の低下でルールが流動化してきています。

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