前回は京都の電子部品メーカーであるNISSHA(ニッシャ)の元社員、矢崎隆三氏(仮名)が営業秘密を持ち出すまでの経緯を追った。今回は産業界から中国への情報漏洩が続く背景を明らかにする。このままでは日本の国際競争力低下は必至だ。

 NISSHAの渡辺亘取締役は、矢崎氏が営業秘密を持ち出したと考えて間違いなさそうだという調査結果を受け、「性善説にのっとった従業員の管理法には限界がある」と強く思った。

NISSHAでは矢崎氏に察知されないよう、極秘裏に調査が行われた(写真:PIXTA、イメージ)
NISSHAでは矢崎氏に察知されないよう、極秘裏に調査が行われた(写真:PIXTA、イメージ)

 NISSHAは以前からどの従業員が社内のデータにアクセスしたか追跡できるよう、システムの利用履歴を管理するなどしていたが、事件を受け、性悪説に基づいて従業員の監視をさらに強化した。具体的には従業員の異常な振る舞いを検知して警報を鳴らす監視システムを導入した。

 IT企業のエルテスは内部不正の監視サービスを提供する1社だ。従業員のメールから退職の兆候を察知したり、営業秘密を管理している部屋への入室記録を分析したりして、情報漏洩のリスクを割り出している。同社の川下巧マネジャーは「退職者が多い年度末(3月末)の1〜2カ月前から情報窃取のリスクが高まる傾向にある。製造業なら技術情報、不動産なら顧客名簿の不正な持ち出しが多い」と話す。

 このように幅広い業種で従業員による営業秘密の漏洩リスクがあるにもかかわらず、日ごろからパソコンの利用履歴を確認するなど、ごく簡単な対策すらとっていない企業は少なくない。営業秘密の漏洩を検知する取り組みを「実施していない」企業は44%にも上る(IPA調べ)。そもそも「実施しているか分からない」企業も6%存在する(同)。合わせて50%だ。

 このままでは営業秘密が漏洩しても、半数の企業は被害に気づくことすらできない。IPAの調査では「過去5年間に営業秘密の漏洩はなかった」と回答した企業は73%だった。だがうのみにはできない。このうち49%の企業が情報漏洩を検知する活動を「実施していない」もしくは「実施しているか分からない」と回答している。逆に「営業秘密の漏洩があった」とする企業の方が監視体制がしっかりしており、情報漏洩を検知する活動を「実施していない」「実施しているか分からない」の合計は26%にとどまる。

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