新型コロナウイルスの影響で消費の風景は激変している。だが、異例の市場環境でも、カテゴリー全体が不調でも、販売を伸ばした商品があった。「世の中になく、消費者が求めているもの」を考え続けた商品は、コロナ禍でも強かった。

 緊急事態宣言直後の4月11日に花王が敏感肌用ブランド「キュレル」から発売した「ディープモイスチャースプレー」。8月までの累計売り上げは計画比1.8倍となった。

花王が4月に発売したキュレルのスプレー。60グラムは店頭価格990円前後(写真:スタジオキャスパー)
花王が4月に発売したキュレルのスプレー。60グラムは店頭価格990円前後(写真:スタジオキャスパー)

 キュレルは1999年に始まった乾燥性敏感肌用ブランド。花王によると、敏感肌用製品の市場は2019年まで17年連続で伸長している。キュレルは成長市場を捉え、クリームや洗顔料など約70種類のスキンケアやメーク用品を展開してきた。だが、ずっと商品化できなかったのがスプレー型だった。

7年越しの開発

 「いろいろな生活の場面で、乾燥肌に悩んでいる人がまだ多くいる」。花王のスキンケア研究所の海津一宏グループリーダーはこう考えていた。入浴後、背中やすねなど手が届きにくい部位を素早く保湿したい。夕方突っ張る顔に、外出先で気軽に保湿剤をつけたい──。既存のキュレルの製品で満たせないニーズに、かねてスプレーなら対応できるというアイデアを持っていた。

 だが、スプレー化の技術的な壁は高かった。霧状にするには、液体の粘度は低くなければいけない。キュレルの特徴でもある保湿因子のセラミド機能成分は油溶性。水に溶けない。

 13年ごろ、海津氏らが微小な空間の中で油と水を混ぜ、乳化させることを考案し、商品化に向けて動き始めた。量産専用装置の設計を社内の別の研究所に依頼。スプレー化した際の使用感を改善するため、処方の研究も重ねた。

 商品化のめどがついたのは17年末頃。その後、量産設備を新設し、20年2月にEC(電子商取引)サイトで先行発売した。本格的な開発着手から、7年の月日がたっていた。

 発売に先立ち、19年秋には「塗りにくい部位も含めて全身一気に塗れる」「外出中にも気軽に使える」と消費者に訴求することにした。そこで発生したのがコロナ禍。消費の縮小は避けられない。外に出かける機会がなくなり、スキンケアまで意識が回らなくなるという懸念もあった。

 しかし、コロナでマスクを常用するようになると肌が荒れるという声が2月末からSNSを中心に飛び交った。キュレル事業部の青木麻美シニアマーケターらは、マスクを着用する前にスプレーをするという使い方を提案。SNSで拡散していった。

 もう1つのポイントである全身に一気に塗れる利点は外出の有無と関係ない。7月の総務省家計調査で理美容用品の支出は前年同月比2.3%減。コロナ禍で市場は弱含みだ。しかし、技術の壁を乗り越えたイノベーションは逆風を跳ね返すヒットを生んだ。

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