「どんなお弁当をほしいと思いますか」。4代目社長の高見澤みねじ氏が列車の利用客に直接聞きながら構想を練った。「あたたかいご飯であること」「家庭的なあたたかさがあること」「地方色豊かであること」。そんな要望を踏まえ57年に生み出したのが、同社の代表商品となる「峠の釜めし」だ。「釜」の中には、ごはんにタケノコやシイタケ、栗にうずらの卵、あんずといった食材が色とりどりに並ぶ。

テレビドラマ化で一躍、全国区に

 すると、今度は大ヒットした。山のように「峠の釜めし」を積み上げた置台が乗客らで取り囲まれ、「ものの1~2分ほどで人垣がサッとかき消すようにとけ去った」(駅弁研究家の藤野英夫氏)。67年には同社をモデルにしたテレビドラマで、池内淳子さんが出演した「釜めし夫婦」がフジテレビ系列で放送され、全国的に知名度が高まった。

タケノコ、栗、うずらの卵など食材が色とりどりに並ぶ。
タケノコ、栗、うずらの卵など食材が色とりどりに並ぶ。

 そんな「峠の釜めし」、今回のコロナ禍でどのような状況なのか。

 現在の荻野屋は、「峠の釜めし」などの弁当の製造・販売に加え、観光バスを店舗に誘致して食事を提供するドライブインの営業や、高速道路のサービスエリアでの営業を手掛ける。このうち、最も新型コロナの影響を受けたのが、ドライブイン営業だという。1997年の横川―軽井沢駅間の廃線に伴う利用客の減少以降、新たな利用客を開拓するために力を入れてきた分野だったから、なおさら痛手が大きい。

 「信州や群馬に向かう東京や中部、関西圏から訪れるバスツアーのルートに私たちの店舗を入れてもらえるよう、旅行会社に提案し、利用してもらっていた。そうしたツアーが全くなくなってしまったのが、今回のコロナ禍での最も大きいインパクトだった」。6代目社長の高見澤志和氏はこう語る。

 横川駅前の本店は緊急事態宣言前から、店舗が狭いこともあり3密防止のため9月中旬まで休業。一時は近隣の横川店も店先でのテークアウトのみの営業にした。

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