「クロダも交代するのではないか」。8月28日、安倍晋三首相が電撃的に辞任を表明すると、眠ったままといわれてきた日本国債市場も数日間、少なからず動揺した。
長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りは一時0.055%に上昇、7月2日以来の水準になった。安倍首相と共同歩調をとってきた日銀の黒田東彦総裁も一緒に退く。こう考えた一部の海外投資家が、金利上昇につながる国債の売却に走ったからだという。

だがこの黒田氏退任観測は今のところ杞憂(きゆう)の可能性が高い。
「冷静に考えれば、2人が一緒に辞めてしまうと日銀の独立性などなく、これまでの行いが『財政ファイナンス』だと認めてしまうようなもの」(国内証券アナリスト)。長期金利が再び低位安定で落ち着いている様子を見ると、海外投資家にもこうした考え方が広がったと見た方が妥当だ。要するに、債券市場関係者の多くは、「財政ファイナンスを認めようが認めまいが、政府の暗黙の圧力も日銀の下支えも続く」とみている。
政府・日銀の支え合いは続く
かくして、間もなく決まる新政権下でも、政府・日銀の支え合いの構図は続くはずである。
日銀はコロナ危機に対応する名目で、国債だけでなく、ETF(上場投資信託)、社債、コマーシャルペーパーなどあらゆるものを買い支える。仮に金利が上昇しようものならイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)と称して、長期国債の金利が0.1%を上回らないよう買い入れの量を調節する。政府は半ばこの構図に甘えながら、巨額の財政出動を続ける。金利上昇は日銀が抑えてくれるので、ひとまず国債の元利払いに使う国債費が膨張する事態も避けられる。
「双子の赤字」ではなく、「双子の肥満」──。長く、債券市場をウオッチしてきたピクテ投信投資顧問の市川眞一シニア・フェローは、財政政策、金融政策両面で膨れ上がったこの日本の状況を「肥満体」だと表現する。国・地方合わせた公的債務残高は1000兆円を優に上回り、日銀のバランスシート上の負債残高は、日本のGDP(国内総生産)の規模を上回る。
脂肪を減らし、スリムで筋肉質な財政を目指すべきだとの指摘はずっとある。だが、改革には「痛み」が伴うので棚上げ状態が続く。「将来世代の負担増を意味する国債(借金)なのだから、出口の『で』の字ぐらい議論したらどうか」(経済同友会前代表幹事で三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長)。どうやらこうした正論と警鐘も届かない。議論にならない。日本政府の当面の財政再建に関するシナリオは、少し考えただけでもほころびだらけに見えるが、関係者の多くは現実を直視することを避け続けている。

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