「理由? 『ただただ不安だから』に決まっているじゃないですか」

 東京都内に住む会社員、坂口博一さん(仮称、43)はこう話す。新型コロナウイルス感染拡大に対応し、家計を支え新たな需要を喚起する。そんな名目で、政府から支給された1人一律10万円。その使い道を聞くと、坂口さんの場合、「家族4人分(40万円)全額を預金に回した」と語る。

教育、賃金、老後……コロナは将来不安を助長した

 「夏休みもどこにも行けないのだから、せめて家電の買い替えぐらいしない?」。家計を管理する立場から、こんな妻の要望は説き伏せた。勤務先のメーカーでは、毎月の基本給こそ維持されているものの、在宅勤務の長期化に伴って残業代をますます請求しにくくなった。住宅ローン返済の柱であるボーナスはこの夏、3割減ったという。

 他方、小学5年と3年の子供たち向けの費用では、コロナ禍が続こうと、時折オンライン授業に切り替わろうと、中学受験のための塾代がますますかさんでくる。コロナ禍はしばらく続く、会社はもっと傾くかもしれない、冬のボーナスはもっと悲惨かもしれない、ジョブ型雇用が浸透して給与水準ももっとシビアになるかもしれない……。そんな思いばかりが先立ち、ひとまず蓄えておくという選択肢しか坂口さんには残っていなかった。

(写真:共同通信)

 「10万円一律給付」を柱とし、一般会計25兆円に及ぶ緊急経済対策と2020年度の第1次補正予算を安倍晋三政権が決めたのは今年4月。減収世帯への30万円支給を撤回し、すったもんだの揚げ句、すでに決まっていた予算を組み替えてまで対策を実現したことは、まだまだ記憶に新しい。

 無論、前出の坂口さんのように、貯蓄に回せるケースはまだマシで、生活費や給与が減った分の補填に充てる人、10万円をもらっても生活がままならない人も多いことだろう。一連の大盤振る舞いは全く無意味だと主張するつもりはない。「正直、助かった」と話す人たちにも幾度も出会った。

 ただ、である。やはりここで確かめておかねばならないことがある。

 対策の財源のすべてを国債発行という形でいわばツケ払いに頼っているだけに、今回の大盤振る舞いのコスパはいかほどか。そして政権がはじいた「1次補正予算でGDP(国内総生産)を3.3%押し上げる」という試算に真実味がどれだけあるか、またはあったか。これらについて、目を向けねばならない。少なくとも、私たちの周囲を見回すだけで、政治家や官僚が当初描いていた絵とはやや異なる方向に動いているものがゴロゴロある。

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