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コロナ禍であらためて明らかになったことの1つが、日本の「デジタル後進国」ぶりだ。押印のための出勤など、デジタル化を真剣に進めていれば、容易に解決できた問題も多い。政府はデジタル強国戦略に約20年前から取り組んできたが、思うように進んでいない。Japan Digital DesignのCTOで政府CIO補佐官も務める楠正憲氏は、「IT担当より強い現場」や「バブル崩壊以降の採用抑制やコスト削減」が背景にあると指摘する。

【この連載のこれまでのラインアップ】
第1回 花王が挑む「FAX一掃作戦」、コロナ特需で電子化は逆行
第2回 加速する三井物産の印鑑レス、それでも残る「岩盤」
第3回 コロナで遅延危機、リモートで決算乗り切ったセゾン情報システムズ
第4回 メルカリ山田社長「社会全体にエンジニア的な視点が必要」

楠正憲(くすのき・まさのり)
1977年生まれ。98年にインターネット総合研究所入社。2002年にマイクロソフトに移り、技術戦略部長、CTO補佐など歴任。11年に内閣官房番号制度推進管理補佐官、12年内閣官房政府CIO補佐官として任用。12年にヤフーを経て、17年から三菱UFJフィナンシャル・グループ傘下のフィンテック子会社Japan Digital DesignでCTOを務める。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)の必要性が叫ばれています。

楠正憲Japan Digital Design CTO(以下、楠氏):経済産業省は2018年9月に発表した「DXレポート」で、「2025年の崖」を取り上げました。

既存のITシステムが部門ごとに構築され、全社横断的にデータが活用できなかったり、過剰なカスタマイズで複雑化してしまったりして、DXが推進できていないことを指摘したリポートですね。先端技術だけでなく古いプログラミング言語を知るIT人材が不足して2025年にITシステムの運用が難しくなる前に、集中してDXを進めなければならないと強調しています。

楠氏:これまで「神聖にして侵すべからず」という扱いだったレガシーなITシステムにメスを入れよう、と主張しやすくなったのはとても良いと思います。企業では、先輩や自分たちがこれまでやってきたことを否定するのは難しいですから。

 ただ、今起きているDXの議論には違和感があります。いきなり「道具」の話になるからです。「大型コンピューターをやめて、コンテナ技術(ソフトウエア開発を高速化できるクラウド関連の技術)を活用してクラウド化を進め、AI(人工知能)的な要素を入れれば完璧!」といったふうな。

クラウドに移行すればDXだと勘違いしていると?