新型コロナウイルスの感染拡大の結果、在宅勤務によるテレワークが当たり前になり、様々な局面で接触を減らす努力がなされるようになった。変化を余儀なくされる中で浮かび上がってきたのは、デジタルを使いこなせていない日本の姿だ。押印のための出勤など、デジタル化を真剣に進めていれば、容易に解決できた問題も多い。多くの日本企業も、コロナ禍を契機にデジタル化をもう一歩進めようとしている。

 第1回「花王が挑む『FAX一掃作戦』、コロナ特需で電子化は逆行」ではFAXによる注文の削減に目指す花王の取り組みに触れた。今回は新本社の本格稼働を機に「印鑑レス」を加速している三井物産の事例を紹介する。

 机に置かれた決裁箱。印鑑待ちの稟議(りんぎ)書の山を取り出し、次々とはんこを押していく──。コロナ禍は日本のオフィスのこんな日常を変えられるのだろうか。

 今年6月に東京・大手町の新本社を本格移動させた三井物産が「印鑑レス」を加速させている。電子署名サービス大手の米ドキュサインのサービスを全社に導入。新型コロナウイルスの脅威がまだ広がっていなかった今年2月と比較すると、今年6月の利用数は10倍以上になった。

 新本社は、社員一人ひとりに割り当てられた席がない。執務席は本社で働く4500人に対し7割しか用意されておらず、社員には高さ約50センチのロッカーが割り当てられただけ。その日、仕事をする席は、その日ごとに選ぶフリーアドレス制だ。(関連記事:三井物産が本社を社外に「開放」、オフィスの意味を再定義

三井物産の新本社は、社員一人ひとりの決まった席はなく、ペーパーレスが進んでいる
三井物産の新本社は、社員一人ひとりの決まった席はなく、ペーパーレスが進んでいる

 新オフィスは社内外の活発な交流を期待しての仕掛けだが、大量の書類を持ち歩いて座席を探していては、かえって効率が落ちる。新本社の移転前にペーパーレスをなじませる必要があると、2019年11月にドキュサインを使い始めた。世界で50万社以上が利用し、最大手とされる。

 クラウドに契約書や稟議書などの書類データをアップし、関係者はクラウド上で承認(署名)する。社員が書いた稟議を上長が承認すると、さらに役員へ通知が行くといった具合にワークフローが可視化される。自分が提出した書類の決裁がどこまで進んでいるか不安になることもない。

 三井物産には、はんこ待ちの紙は「インボックス」、はんこを押した後は「アウトボックス」という箱に入れる慣習があるが、新本社移転によりかなり廃れたという。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り2248文字 / 全文3249文字

【春割/2カ月無料】お申し込みで

人気コラム、特集記事…すべて読み放題

ウェビナー・音声コンテンツを視聴可能

バックナンバー11年分が読み放題

この記事はシリーズ「デジタル後進国ニッポン」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。