2019年6月、三菱商事デジタル戦略部の増池乾人(27歳)は、インドネシアにいた。同部の上司、田代浩司部長代行(49歳)に「HEREがものになるか、見極めてこい」と命じられたからだ。

三菱商事デジタル戦略部の田代浩司(左)はデジタル地図の先進企業、HEREテクノロジーズへの出資交渉をまとめ上げた(右は増池乾人)

 HEREテクノロジーズ(オランダ)は、欧米のカーナビゲーションシステム用の地図で8割のシェアを持つ「デジタル地図」の大手だ。今後の自動車産業のカギを握る自動運転に不可欠な存在として、2015年にドイツの自動車3社(ダイムラー、BMW、アウディ)がフィンランドの通信機器大手ノキアから買収。田代は交渉責任者として、独3社とHEREへの出資に向けた折衝中だった。

HEREって何?

HEREの位置情報サービスを活用したアプリを数千万円かけて作成した

 増池の使命は、資本提携後にスムーズに事業を進めるため、HEREのポテンシャルを社内外のパートナーに理解してもらうこと。2カ月かけてインドネシアを回ったが、同じくデジタル地図の双璧として知られる米グーグルに比べて圧倒的に知名度が低く、「HEREって何?という状態だった」。

 そこで増池は、HEREの位置情報サービスを活用したアプリケーションを数千万円かけて作成。グーグルマップと比較することにした。

 B2B(事業者向け)のHEREは、道路情報の網羅性、地点情報の正確性に強みがある。2台の自動車で地点間の到達時間を計測したり、両者で食い違う拠点情報を自ら確かめたりして、HEREの長所をまとめたリポートを作成。インドネシアだけでなく、東京本社にもHEREの理解が広がり、19年12月、三菱商事はNTTと共同でHEREに出資することを決めた。

三菱商事は2019年12月、NTTと共同でHEREに出資すると発表した

 HEREはデジタル地図情報の基盤に加え、企業が位置情報を活用しやすいようなアプリの開発環境を整えて提供している。米物流大手のフェデックスは最適な物流網を構築するのに活用する。三菱商事は、この情報基盤を資産として取得すると同時に、HEREが得意な自動車分野以外にもアプリを広げていく戦略を掲げている。

 田代は「今回の資本提携が三菱商事のデジタル化を推し進めるラストチャンス」と語る。入社以来、「サブストリーム(非主流)」のIT部門一筋。揺れる三菱商事のIT戦略のもと奮闘してきた。今こそ総合商社の産業に関するリアルな知見とデジタルを掛け合わせる好機だとみている。

続きを読む 2/3 「神学論争」で揺れるIT戦略

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