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新型コロナウイルスの感染拡大が収束した後も、在宅勤務を基本とする働き方を継続することを決めた会社が増えている。建材・住宅設備大手のLIXILもその1社だ。同社の会長兼社長兼CEO(最高経営責任者)の瀬戸欣哉氏に、その狙いを聞いた。瀬戸氏は、「おじさんたちが覚悟し、道を開くという覚悟をしないと、日本は変わらない」と指摘する。どういうことか。

新型コロナの感染拡大が収束した後も、在宅勤務を基本とする働き方を続けると宣言しています。10月1日からはフレックスタイム制度のコアタイムを廃止し、午前5時から午後10時まで自由に働く時間を決められるスーパーフレックス制度をスタートしました。新しい働き方に移行する決断をしたのはなぜですか。

瀬戸欣哉・LIXIL会長兼社長兼CEO(以下、瀬戸氏): 昨年、LIXILに帰ってきてから(編集部注:2018年10月末にCEOを解任されたが、2019年6月の株主総会を経て復帰した)、働き方改革としてITインフラをしっかり作って在宅勤務を推進してきました。だから、コロナ禍でもすぐに在宅勤務に移行できました。

 僕自身、ほとんど出社していませんが、非常に効率がいい。例えば、LIXILにはトイレなどの水回り製品とサッシなどの建材の事業でそれぞれ17の支社がありますが、合わせて34人の支社長とのミーティングを1人30分ずつ、2日間でできました。オンライン会議の仕組みを使わなければ、これほどの効率は実現できません。

 バーチャル空間でキッチンをAR(拡張現実)技術などを使って確認しながら商談できるオンラインショールームの活用も進んでいます。5月に開始し、これまでに累計で5000件以上、オンラインで接客しています。

 お客様には、仕事が終わった後、夜に商談をしたいというニーズもあるということで、8月6日から9月13日までトライアルで夜の6時、7時に商談ができる「ナイトオンライン接客」を実施しました。これまでは、遅くまでお客様をショールームで待っていなければいけないこともありました。でも、自宅からオンラインショールームで商談できるようになると、お客様にとっても社員にとっても、とても便利なわけです。

 在宅勤務を徹底すると、生産性は落ちるどころか、むしろ高まるのではないかと考えたということです。

現在の社員の出社率はどれくらいですか。

瀬戸氏:今、出社率は40%を超えてはいけないというルールにしていますが、出社している人の割合は本社で今日は10%くらいです。週の初めと月末は少し増えるので、10%は多い方だと思いますよ(取材日は9月29日)。

外出自粛ムードがだいぶ薄らいでいる中で、出社率を低く抑えられているのはどうしてですか。部下の管理が難しくなるからといった理由で、在宅勤務に消極的な社員もいると思いますが。

瀬戸氏:それが一番まずいんですよね。つまり、部下の働き方を、成果よりも労働時間や目に見える頑張りでしか見ていなかったということですから。そういう意味で、在宅勤務ではかなり管理職の力量が問われていると思います。

 基本的に、LIXILの社員はみんな真面目で素直なので、仕事は労働時間ではなくて、内容で勝負しましょうと言えば、それはそうだと納得してくれます。それでも、これまで働き方がなかなか変わらなかったのは、取引先との関係があったからです。

 社内である程度完結する仕事なら、在宅勤務への移行は容易です。しかし、営業など社外に相手がいる仕事は違います。会って話をしようとか、こちらは上司が出て行くので、そちらも上司に出てきてほしいとか、みんなで現場に行ってみましょうとか、そういうことがあるので在宅勤務は難しかった。でも今回、コロナ対策で一斉に在宅勤務に移行したことで、取引先も仕方ないなと思っていただけるようになりました。むしろ、実際にオンラインで商談をするようになると、こちらの方が便利だと感じていただけている取引先も多いと思います。

 これまでも、オンラインで見積もりをするシステムはありましたが、使っていただけない取引先がたくさんありました。こちらに図面があるから取りに来てとか、適当に注文しておいてとか、そういうこともあったわけです。けれど、今は基本的に全部オンラインでやりましょうという提案を、説得力を持ってできるようになりました。

 先ほどお話ししたオンラインショールームに流通の方が入って、LIXILの社員と一緒にお客様と商談をするということもできます。やってみたら便利だね、と皆さんに分かっていただけた。お客様の中には感染することを心配して、対面では商談をしたくないという人も少なくありません。お客様がオンラインショールームのようなツールを提供してくれる会社との商談を望んでいるとき、流通の方もそれに応えようという気持ちになっていただけたのではないでしょうか。

うちは現場に出ているのに、LIXILの社員が在宅勤務というのはけしからん、という反応はありませんか。

瀬戸氏:それは日本でよくある議論だと思うのですが、公平であることが大切なのか、そこにいる関係者全員の幸せが最大になることが大切なのか、どちらを取るかという話だと思います。

 LIXILでも、工場やショールームで働く人は、コロナのような困難な状況でも出勤しています。でも、彼らが出勤しているからほかの社員も全員出勤すべきだというような論理は、間違っています。

 消防士が「俺はいつも危険な仕事をしてるんだから、みんなも同じぐらい危険なことをしよう」とは言わないでしょう。それって意味がないですよね。社会としては当然、フロントラインで働く人に対して感謝すべきだし、我々も工場やショールームなど、出社しなくてはいけない人たちに対して敬意を示して感謝しなければなりません。だからといって、みんなも同じように出社させるのは無駄な話です。

 実は、僕がLIXILに来たときにも似たような壁に当たったことがあります。背広にネクタイという堅苦しい格好をして出社しなくても、働きやすい服装で来ればいいと言ったときのことです。ある取締役が、「そんなことではだめです。工場で働く人は作業服を着ているし、営業も背広を着ているのだから、みんな同じようにすべきだ」と言ったんです。

 それって、一番つらい人に全体を合わせるという発想で、おかしいですよね。

 こうした考え方は、かなり日本にまん延していると思います。でも、LIXILが進むべきはそのような方向ではなく、異なる働き方をしている人同士が、お互いに敬意を持って、その働き方を尊重するような会社になることです。LIXILの理念の1つに「Work with Respect」というのがあるのですが、それは何かと言うと、相手との違いを理解するということなんですよ。

 僕はこれが、これからの日本を考える上でものすごく重要なキーワードだと思っています。日本の企業社会の大きな問題点の1つは、同じような働き方ができる人をあらかじめ集め、同じ条件で働くことを強いていることです。より分かりやすく言えば、妻に家庭を守ってもらい、長時間残業も休日出勤もいとわず働ける男性を前提に、全てのシステムを作っていることです。

 みんな同じなので、誰か苦しい人がいたらみんなも同じぐらい苦しい思いをしなくちゃいけないという考え方になる。そういう論理は、均一な社会を前提としているんです。しかし、もはやそのような考え方をする会社はこの先、うまくいかなくなると思います。

 多様性を認めるのが、これからの社会の在り方です。