新型コロナウイルスにより広がったリモートワークは、個々人の仕事の評価方法や労務管理の手法に疑問を投げかけ、組織と個人の関係を見直すきっかけになった。特集で紹介したように、富士通や三菱ケミカル、KDDIなどが「ジョブ型雇用」を導入したり、範囲を拡大したりしている。

今回は、注目を集める「ジョブ型」雇用は、年功序列や終身雇用を前提としてきた日本社会になじむのかについて、組織論が専門の同志社大学の太田肇教授に聞いた。

(写真:PIXTA)
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仕事が分かれていないから長時間労働になる

日本の労働者は長時間労働が珍しくなく、海外に比べて生産性が低いといわれるのはなぜでしょうか。

太田肇同志社大学教授(以下、太田氏):日本企業は今まで、働く人がその組織や集団に溶け込み、組織と個人が未分化なことが特徴でした。そのような組織構造では、個々の仕事の分担がはっきりしなくなります。周囲との相互依存関係が必要以上に強くなり、理不尽な要求や不公平な評価が生じやすい。部下が上司に対し、仕事上の役割の範囲を超えて従属する関係ができてしまうのです。

<span class="fontBold">太田肇(おおた・はじめ)氏</span><br />1954年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。京都大学経済学博士。公務員を経験した後、2004年同志社大学政策学部教授。専門は組織論。
太田肇(おおた・はじめ)氏
1954年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。京都大学経済学博士。公務員を経験した後、2004年同志社大学政策学部教授。専門は組織論。

 この構造は、2つの側面から負の面が見えてきています。1つは働き方改革。「自分の仕事はどこまでか」という線引きが明確でないから、本来は出なくていい無駄な会議が増えたり、他人のペースで仕事をすることになり残業が増えたりします。

 もう1つは生産性の向上や新規事業の創出の足かせになることです。かつての少品種大量生産時代は、会社と個人が未分化であることを生かせました。決まった仕事をいかに正確に、迅速にこなすかが重視されたからです。しかし、クリエーティブな能力が必要な時代では、それはネックになる。

 アイデアは自分の頭の中で湧いてくるものであり、組織やチームに溶け込ませると、周りが喜ぶものになっていってしまうからです。モチベーションにも関係します。自分の仕事だと思えば、突出したことをして、目立ちたいという気持ちが湧きます。名前が出ると思うと名誉にかけてやりますよね。

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