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新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに進む、働き方の見直し。以前にも増して耳にするようになったのが「ジョブ型」という言葉だ。連載「どうなる? 働き方ニューノーマル」の第8回はこの言葉の生みの親である、労働政策研究・研修機構の労働政策研究所で所長を務める濱口桂一郎氏に話を聞く。

これまで日本社会では、仕事の内容も勤務場所も労働時間も定めずに、いわば“白紙契約”で正社員として働くのが一般的だった。濱口氏は、企業という共同体の一員となるという意味合いから、こうした人事制度を「メンバーシップ型」と命名。これに対して、欧米など国外では一般的な「ジョブディスクリプション(職務記述書)」を交わして、あらかじめ仕事の内容や報酬などを明確にする雇用の在り方を「ジョブ型」と名付けた。

ジョブ型の提唱者は、コロナ禍によって加速する日本型雇用の変化をどのように見ているのだろうか。

(写真:PIXTA)

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、ジョブ型雇用への転換が一層叫ばれるようになっています。

濱口桂一郎・労働政策研究所長(以下、濱口氏):コロナ禍でリモートワークをしなければならないからジョブ型がいいのでは、というのはあまりにも薄っぺらな議論です。

 欧米の場合は一人ひとりに仕事が切り分けられていますが、日本ではそうではなかった。そのことがオフィスワークからリモートワークになって改めて露呈したというのはあるかもしれませんが、だからジョブ型にというのは表層的な話でしょう。あまりコロナにかこつけない方がいいように思います。

 本質的に言うと、情報通信技術の発達で、実はジョブ型に移行しなくても、仕事の切り分けがそれなりにできるレベルにもう達しつつあるんですね。今回のコロナで私も使い始めましたが、オンライン会議ツール「Zoom」のようなもので、メンバーシップ型と同じぐらい濃密なコミュニケーションが時空間を超えて可能になっている。じゃあ、何で仕事を切り分ける必要があるのか、何でジョブ型にする必要があるのかと。

濱口桂一郎(はまぐち・けいいちろう)氏
1983年東京大学法学部卒業、労働省(現厚生労働省)に入省。欧州連合日本政府代表部1等書記官などを経て、2003年東京大学大学院法学政治学研究科附属比較法政国際センター客員教授。05年政策研究大学院大学教授。08年労働政策研究・研修機構労使関係・労使コミュニケーション部門統括研究員、17年4月から現職。著書多数。近著に『働き方改革の世界史』(ちくま新書、2020年)。(写真:伊藤菜々子)

リモートワークはジョブ型に移行する理由にはならないということですね。

濱口氏:リモートワークだからというのではなくて、そもそも論としてジョブ型とは何かという議論をきちんとした方がいいでしょう。コロナでやむを得ず、というのはきっかけとしてはいいかもしれませんが、本質を外した議論になりがちです。

 実はジョブ型というのは不便な仕組みなのです。不便なジョブ型にあえてするということを理解しているのか。今の、時ならぬジョブ型の流行に疑問を感じています。