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 新型コロナウイルスの感染拡大は、“社会人総リモートワーク”という世界を一時的に創り出した。リモートワークが当たり前になる中、普段の生活から離れて休暇を楽しみながら働く「ワーケーション」など、個人が新しい働き方を実践する動きも活発化。企業と個人が対等の立場でどう働くかを共有する新しい時代が到来している。

 連載「どうなる? 働き方ニューノーマル」。前回は西村経済再生担当相に、政府として新たな働き方をどのようにサポートしていくかを聞いた。今回は、リモートワークなどの環境をフル活用し、多様な働き方を実現する個人に目を向ける。

仕事しながら中米の旅を続けた肘井さん。平日は観光をメインにする一方、土日は10時間以上仕事をした

 コロナ・ショックによって多くの社会人はリモートワークを経験することとなった。このことが「年功序列」「終身雇用」など、従来の日本型雇用慣行への意識を大きく揺さぶっている。成果を重視するジョブ型雇用の採用が大企業を中心に広がりはじめたのもその流れの1つ。そして、これに呼応するかのように、個人が主体的に自分らしい働き方を実践する動きも出ている。

突如出た「ワーケーション」

 「観光は地方創生の切り札。インバウンド(訪日外国人)が極めて厳しい状況なので、(ワーケーションは)新しい旅行や働き方のスタイルとして、政府としても普及に取り組んでいきたい」

 2020年7月下旬、政府の菅義偉官房長官は国民の耳目を集める記者会見で、会社員らが休暇中に働く「ワーケーション」という概念をぶち上げた。

 突然、政府高官の口から出たカタカナ用語に何のことかよく分からない人も多かったに違いない。ワーケーションとは、「ワーク(働く)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語。リゾート地などで、職場とは異なる場所で休暇を取りながら仕事をする取り組みのことだ。米国など海外では取り入れられているが、日本では一般的に知られていなかった。コロナ禍でリモートワークが普及する中、その延長線上にある試みとして脚光を浴びた。

 菅官房長官の発言は、新型コロナによる外出自粛で痛手を受けた観光浮揚を前提にしたもので、働く現場からはワーケーションの導入について否定的な見方が多い。日経ビジネスが8月に実施した働き方に対する独自調査(回答数1107人)でも、ワーケーションについて「絵に描いた餅」「休みと仕事の区切りが難しそう」「環境の良さが仕事の効率化につながるか懐疑的だ」などの意見が噴出した。過剰労働につながりかねないという問題点の指摘もある。

(※日経ビジネスの独自調査については記事最終ページに掲載)

 休暇か仕事か、境目が曖昧な「ワーケーション」という概念は、これまでの「労働」の概念では捉えきれない。労務問題に詳しい弁護士事務所アルシエン(東京・千代田)の竹花元弁護士は、「時間管理など現場の実態を理解しているとは思えない」と首をかしげる。

 だが、既に事態は進行している。これまでの日本型雇用の労働観に縛られずに、自分らしい生き方を実現するために新たな働き方に挑戦する人が確実に増えている。

総合職で働きながら世界一周

 世界一周しながら仕事をしたい――。ソーシャル・メディア・サービスのガイアックスに勤める肘井絵里奈さんは、そんな夢を叶えるため、今年2月、日本を飛び立った。メキシコ、グアテマラ、ベリーズを回り、3月中旬にコロナ感染拡大の状況を考慮して一時中止することとなったが、1カ月半、仕事しながら旅する生活は充実したものだった。

 旅程は中南米からスタートし、アフリカ、中東、アジアを約1年かけて巡る予定だった。肘井さんは、会社でSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などを使った企業PRやマーケティングなどを担当しているが、日本をたつ前に担当顧客企業が10社程度あったのを5社にし、仕事量をほぼ半分に減らした。