新型コロナウイルスの感染拡大で大きく変わる働き方。これまで、ジョブ型雇用にかじを切った富士通在宅勤務を働く場所の「ファーストプレイス」と位置付けたキリンホールディングスの事例を見てきた。第3回は、「単身赴任」の解消に動き出したカルビーとメタウォーターを取り上げる。

 単身赴任は、これまで日本的な働き方の特徴の1つとされてきた。読者の中にも、単身赴任中、もしくは単身赴任を経験したことがある方も少なくないはずだ。なぜ、両社は単身赴任の解消に乗り出したのか。

(写真:アフロ)
(写真:アフロ)

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が首都圏も含めて全面解除されてから、ちょうど1カ月がたった6月25日。カルビーはオフィスで働く社員約800人を対象にした働き方のニューノーマル(新常態)、「Calbee New Workstyle」を公表した。30%前後の出社率を目安にモバイルワークを原則とすることが主眼だが、目を引いたのは合わせて打ち出した単身赴任の解消だ。コアタイム(午前10時~午後3時)の撤廃や、通勤定期代の支給停止と在宅勤務手当の創設といったモバイルワークを支える具体策が並ぶ中で、異彩を放った。

 単身赴任は、会社の命令であれば家庭生活をも犠牲にする日本型雇用の悪弊の象徴とも言える。カルビーはこのほど、業務に支障がないと所属部門が認めれば、単身赴任の解除を申請できるようにした。対象となるのは、製造現場で働く社員や、地域で営業に従事する社員ら100人弱だ。

 野心的な取り組みに映るが、CHRO(最高人事責任者)を務める武田雅子氏には気負ったところがない。「働く場所にとらわれないモバイルワークで仕事がちゃんと回っているのなら、単身赴任は解除しないとおかしい。決定はごくごく自然な成り行きでした」と話す。

 カルビーがこうした境地に至ったのは、日本企業の中でも早い段階でモバイルワークに可能性を見いだし、出社しなくても働ける環境を整備してきたからだ。2000年代初頭から経費精算の電子化や、会議資料や報告書のペーパーレス化に着手。2009年に松本晃氏が会長兼CEO(最高経営責任者)に就くと改革は一層加速した。

 2010年には社員の固定席を廃止して、毎日席が替わるフリーアドレスを導入。2014年には在宅勤務を可能にした。武田氏が「おはようと声を掛け合って、上司以下チーム全員が同じ島で働くというスタイルは、もう10年近くもやっていない。全員がそろわない状態で働くことに慣れていた」と話すように、カルビーではモバイルワークを推進する土壌ができあがっていた。コロナ禍はその強みを存分に発揮する機会になると同時に、会社主導の改革が社員一人ひとりの改革へと転換するきっかけになった。

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