新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的に、多くの企業で強制的に在宅勤務が広まった。働く場所を会社に限定しないテレワークは、定められた仕事をこなせるかどうかのスキルがより重視される、「ジョブ型」雇用への転換を多くの企業で加速させている。

 戦後の復興と高度経済成長期を経て確立した年功序列や終身雇用などをベースとした、いわゆる「日本型雇用」。危機のたびに修正が試みられてきたものの、今も組織に深く根を張る旧来のモデルが、コロナ禍でいよいよ根底から揺さぶられる事態となった。その変化によって訪れる働き方のニューノーマル(新常態)は、企業、そして個人にとって天国か地獄か。希望や不安を抱くビジネスパーソンは少なくないはずだ。

 本連載では、企業の動きや専門家の意見、ビジネスパーソンへの独自アンケートの結果などを紹介していく。第1回は、富士通が「ジョブ型雇用」にかじを切る意思決定をした背景を考察する。

在宅勤務の浸透で閑散とする富士通社内(写真:ロイター/アフロ)

 「オフィス面積を半減し、通勤定期券代の支給も廃止する」――。7月6日に富士通がコロナ後の「ニューノーマル(新常態)」を見据えた働き方改革の方向性を公表すると、新聞各紙にはこんな見出しが躍った。製造拠点や顧客先常駐者などを除いて、約8万人いる国内のグループ社員を原則としてテレワーク勤務にするというインパクトは強く、世間の注目を浴びた。同時に発表した、「ジョブ型」の人事制度への転換はその陰に隠れた印象だが、働き方改革の旗を振る時田隆仁社長の思い入れが強いのは、むしろこちらのようだ。

 日本では従来、仕事の内容や勤務先などを明確に定めず、いわば“白紙契約”のような状態で正社員として働くのが一般的だった。企業という共同体の一員になるという意味合いから、こうした人事制度は「メンバーシップ型」と呼ばれる。ジョブローテーションに象徴される異動や転勤など、会社の意向次第で社員の置かれる環境は大きく左右される。基本的に、会社の指示に従うのが常だ。

「ジョブ型」って何だ?

 これに対するのが「ジョブ型」だ。「ジョブディスクリプション(職務記述書)」に基づき、あらかじめ仕事の内容や報酬などを明確にしたうえで、会社と個人が厳格な雇用契約を交わす。それぞれのポストごとに定めたジョブディスクリプションに従って、人材を採用・配置・評価していくもので、欧米をはじめ日本以外では一般的な仕組みだ。ジョブローテーションといった考えや、会社側の一方的な指示によって転勤するという発想は、基本的になじまない。

 メンバーシップ型からジョブ型への転換には、企業文化の大転換が伴うと言っても過言ではない。それを富士通は、2019年6月に就任した時田社長の下で一気に進めようとしている。既に2015年から、一部の上級幹部社員を対象にグローバル共通の基準で職責を7段階で格付けし、報酬をひもづける「FUJITSU Level」というジョブ型の人事制度を導入してきた。だが、当初は本部長でも対象となる人材がいたり、いなかったりと運用は徹底していなかったという。時田社長はそのような状況に満足していなかったようだ。

 総務・人事本部シニアディレクターの森川学氏は「将来的な課題としていた管理職、さらには一般社員への適用拡大に向けた議論が、社長の後押しもあって急速に進んだ」と明かす。今年4月、国内の管理職1万5000人にジョブ型の人事制度を導入。21年度中には一般社員への展開に向けた労働組合との議論もスタートさせる予定だ。

 なぜ、富士通がこのタイミングでジョブ型へと大きくかじを切るのか。その理由をひもとく糸口は時田社長の経歴にある。

 時田社長は社長就任直近の約2年間、ロンドンに駐在していた。そこで海外のIT事業を統括し、全世界1万人弱の部下を抱える立場に身を置いていた。その中で痛感したのは、人事制度をグローバルで統一する必要性だ。森田氏は「オーストラリアで働いていた人がアジアに行ったり、アジアで働いていた人がヨーロッパに来たり、社長はそういう海外の働き方を見ていたのでしょう。そうした人材の流動性は、評価の基準や報酬の水準がグローバルで整理されて初めて成り立つのです」と話す。

時田隆仁・富士通社長(写真:北山宏一)

 「ジョブ型は海外では当たり前だったが、日本だけが違った。13万人の全社員が同じパーパス(目的)に向かって動いてこそ、富士通の価値は最大化する。だから、働き方を世界で統一したい」。時田社長は、そう強調する。

(富士通の時田社長のインタビューは8月31日(月)連載「再興ニッポン」で掲載予定です。再興ニッポンをフォローしてください)

 そしてもう1つ、時田社長がジョブ型にこだわる理由がある。

 「社員一人ひとりが自律すること」

 どういうことか。

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