新型コロナウイルス感染拡大に伴う航空機向け需要の急減で、苦境に立たされている東レの炭素繊維複合材事業が、ここに来て粘りを見せている。同事業の売上高の半分近くを占める航空機向け需要が大きく落ち込む一方で、風力発電向けの需要は堅調さを維持。2021年3月期の同事業の業績は、期初予想よりも赤字が縮小する見通しとなった。航空機向け依存から脱却すべく打ってきた布石が功を奏した格好で、高性能品と汎用品を共に手掛ける炭素繊維の二刀流で逆風に抗っている。

 軽量で剛性に優れる炭素繊維は日本企業の地道な研究開発のたまものだ。東レ、帝人、三菱ケミカルの3社で世界シェアは優に5割を超える。中でも、その半分を占める東レはこの分野の最大手だ。

 軽くて強い炭素繊維の特性が最も生かせる分野の一つが航空機向けで、東レは率先して市場を開拓し、米ボーイング社の中型機「787」で主翼や胴体など機体の主要部分向けに独占供給し、確固たる地位を築いてきた。

 それだけにコロナ禍を受けてボーイングが787の減産を決めた衝撃は大きい。同社は787の生産ペースを従来の月間14機から2021年に6機まで落とす計画で、おありを受けて東レの炭素繊維複合材事業は21年3月期には11年ぶりに赤字転落する見通しだ。

 航空機用途の不調が影を落とす一方、風力発電用途は予想以上の好調ぶりで業績を下支えしている。20年4~6月期決算で炭素繊維複合材事業の売上高は、前年同期比26.2%減の454億円、事業利益は73.4%減の17億円。炭素繊維のうち航空宇宙関連の売上高が40%減少し、炭素繊維複合材事業が大幅な減収減益となりながらも、黒字を確保できたのは風力発電用途が堅調だったおかげだ。

風力発電向けの炭素繊維が下支えした(写真:ロイター/アフロ)
風力発電向けの炭素繊維が下支えした(写真:ロイター/アフロ)

 この決算を踏まえて、5月末には120億円と見ていた炭素繊維複合材事業の21年3月期通期の赤字額も80億円にまで減少する見通しとなった。炭素繊維を担当するトレカ事業部門の酒田彰久部門長は「風力発電用途がなければどうなっていたことか。正直ぞっとする」と述懐する。

 風力発電は、陸上の適地が年々少なくなる中で、洋上に進出し、発電効率を維持するために大型化している。大きくなっても風車の回転羽根(ブレード)がたわまず、軽量のため施工が容易だとして、ブレードに炭素繊維が採用されるケースが増えている。風力発電の世界需要は当面の間、8%程度の成長が続く見通し。このように急増する需要を見越して東レは14年に、風力発電所向け汎用品の炭素繊維で約6割の世界シェアを持つ米ゾルテックを買収していた。

燃料電池車向けにも注力

 ゾルテックを買収して手に入れた汎用品と、以前からの高性能品の両方を持つことが東レの強みとなっている。汎用品の単価は安いため、風力発電用途が伸びても、航空機向け高性能品の落ち込みを全てカバーするには至らないが、コロナ禍による市場激変の影響を緩和する一助になっている。

 風力発電用途で下支えをしながら、航空機向け需要の回復を待つとともに、燃料電池車向けや「空飛ぶ車」向けといった高い利益の見込める新分野開拓を急ぐ――。東レが描く当面の炭素繊維事業の戦略だ。高圧水素タンクに使われる燃料電池車向けが新分野の中でも商用化に最も近いとみており、酒田部門長は「航空機需要の持ち直しも重なり、24年ごろから回復基調に乗ってくるのではないか」と見通しを語る。

 炭素繊維の市場拡大には、生産台数が限られる航空機から自動車などへ供給先を広げる必要があるというのは業界の共通認識だが、新型コロナで時計の針は一気に進みそうだ。国内のライバルはもちろん、台頭著しい韓国や中国メーカーとの競争も制して、コロナ後にも依然として“巨人”でいられるか。東レは正念場を迎えている。

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