全2532文字

新型コロナウイルスの猛威によりさまざまな課題や欠陥が明らかになり、「どん底」に突き落とされた日本。どうすれば再興の道へと導けるのか。企業トップや識者による提言をお伝えする「再興ニッポン」の番外編として、逆境こそチャンスとばかりに新たな高みに挑戦する人物や組織、企業を紹介する。初回は6月に性能「世界一」に認定されたスーパーコンピューター「富岳(ふがく)」。日本のスパコンは10年前、「2番じゃダメなんでしょうか」と問われ、再出発を迫られた。性能よりも、いかに世の役に立つか。原点を見つめ直した結果が、花開いている。

 理化学研究所と富士通が開発し、6月に性能「世界一」に認定されたスーパーコンピューター「富岳」が早くも活躍の場を広げている。7月には、新型コロナウイルス感染症の治療の候補となる数十種類の薬剤を高い計算能力で特定したと発表した。約2000種類の既存薬をシミュレーションしてコロナウイルス増殖に関わるタンパク質と結合するかを予測し、治療薬の早期の開発に活路を開いた。

 「従来のスパコンなら1年以上かかる作業だが、わずか10日で済ませることができた」。そう語るは富岳の開発の取りまとめ役を担った理研の松岡聡・計算科学研究センター長だ。今回、富岳を使って行ったのは、2128種類の承認済み医薬品からコロナの治療薬となりそうな薬剤を探すシミュレーション。富岳は全能力の6分の1の容量で、楽々とこの「仕分け」作業をやってのけた。

 創薬におけるスパコンの使い道はこれまで、候補となる物質を絞り込むモデル分析が中心だった。臨床プロセスなどで相当の時間を要するため、一般的な創薬の開発期間は10~15年。待っていられない状況とはいえ、既存薬から探す取り組みは完全なるチャレンジだった。だが、結果は想定をはるかに上回った。「そんなにうまくいくのかと、私を含め関係者の誰もが驚いた」(松岡氏)

 富岳の開発が実質的に始まったのは2010年6月。その半年ほど前、日本のスパコン業界を根底から揺るがした、あの「事件」があった。「世界一になる理由は、何があるのでしょうか? 2番じゃダメなんでしょうか?」。民主党政権による予算削減の「事業仕分け」の場で、蓮舫議員が発した質問。当時、開発が進んでいた富岳の先代である「京(けい)」の目標はまさしく「世界一」だった。