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 新型コロナショックを受けて、東南アジアの製造業が大きく変わりそうだ。この地域には日系製造業が数多く進出し、重層的なサプライチェーンを築いてきた。その地盤を揺るがすほどの変化の波が押し寄せている。これをうまく乗り越え、さらに新しい成長の機会に変えていくにはどうすればいいのか。東南アジアの製造業に強みを持つ戦略コンサルティング会社アーサー・ディ・リトルの専門家が日系企業を取り巻く状況と課題などについて分析し、全4回でリポートする。

コロナで激変、東南アジア製造業の未来:目次(予定)
第1回:逆境でも「撤退」の選択肢はない
第2回:タイ拠点は自立せよ、社会課題に勝機あり
第3回:ベトナムの台頭、フィリピンの岐路
第4回:インドネシアの新需要、新興勢力の勃興

 タイには5000社を超える日系企業が進出しているといわれる。東南アジアの中では市場規模が比較的大きく、人件費も日本に比べれば安い。かつ親日的で輸出拠点としての地の利もあったからだ。タイ側も税を免除するなど恩典を用意して進出を促した。タイは日系企業の一大拠点に成長し、この国の成長を後押しした。両者の関係は強固で、今も日系企業はタイで高い信頼を保つ。他の東南アジア市場で見られるような中国勢の進出もタイでは控えめだ。

 だが足元で日系企業を取り巻く環境は大きく変わりつつあり、日系企業とタイとが蜜月を続けられるかどうかは不透明になってきた。タイは先進国入りを前に経済成長が滞る、いわゆる「中進国の罠(わな)」に捕らわれ、抜け出す道筋がなかなか見いだせずにいる。経済発展に伴い人件費は高騰し、コストだけを見ればベトナムなど他の東南アジア諸国のほうが魅力的になっている。通貨バーツも上昇し、輸出拠点としての強みも薄れかねない。都市と地方、富裕層とそれ以外の層との経済・社会格差は根強く残り、これが政治の不安定化を招いている側面もある。

タイでは社会課題の解決に対するニーズが高まっている。写真は国籍を持たない山岳民族の子供たちのために、日本人によって設立された学校兼養護施設「虹の学校」の生徒。首都バンコクの豊かさの陰で、農村部や国境付近ではこうした問題も残る。

 新興国に多かれ少なかれ共通する課題に加えて、タイは先進国型の課題にも直面している。少子高齢化だ。他の東南アジア諸国と比べて非常に速いペースで高齢化が進んでおり、国連のデータによれば2035年には超高齢社会に突入している。新興国型、先進国型の課題に挟み撃ちされているところに、新型コロナ危機がやって来た。