新型コロナウイルスの感染症に対する治療法が確立されない中、政府は4月に抗インフルエンザ薬「アビガン」の備蓄量を増やすと決定した。世界のサプライチェーン(供給網)が寸断する中、アビガンの開発元である富士フイルム子会社の富士フイルム富山化学は国内で供給網を確立することになった。どのように国内生産体制を整えたのか。そして今、安定供給と経済合理性のバランスをどう見ているのか。「国内回帰」の先陣を切った企業の経験から、最適なサプライチェーンの姿を探る。

「アビガンの生産を検討してほしい」。政府から富士フイルムに要請があったのは2月下旬のことだった。
アビガンは、新型インフルエンザに他の治療薬が効かなかった場合に政府が使用を検討する医薬品。政府が備蓄するのみで一般には流通していなかった。これまで治療用に広く使われた実績もなく、2018年に備蓄を終えてからは富士フイルム富山化学も生産を停止していた。
そんなアビガンを取り巻く環境が新型コロナの感染拡大で一変した。2月上旬には新型コロナの治療に有効かもしれないという見方が広がる。「もし再び生産するならどうすればよいかという検討を2月中旬から社内で始めた」と、富士フイルム取締役常務執行役員でもある富士フイルム富山化学の岡田淳二社長は振り返る。
生産を再開したのは3月上旬。新型コロナの治療で想定される量で換算すると4万人分(新型インフル換算で12万人分)を1カ月に生産できるペースだった。「少量だが仕掛かり品の在庫があった。まずはそれを最終製品にするところから始めた」(岡田氏)
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