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コーポレート・ガバナンスという言葉は、日本にもだいぶ根付いてきたように感じる。だが榊原定征・経団連前会長に言わせると、ここからが本番だ。仏作って魂入れずだと日本企業の成長はおぼつかない。折しも新型コロナウイルスのまん延は様々な価値観の変化、多様化を引き起こした。この多様化に対応するためにもまた、ガバナンスの充実が必要だろう。今、企業経営に求められる心構えを榊原氏に聞いた。

榊原 定征(さかきばら・さだゆき)
1967年に名古屋大学大学院修了、東洋レーヨン(現東レ)に入社。2002年に社長、10年に会長に就任。14年から4年間は経団連会長を務める。最近は日本企業のガバナンス改革に力を入れており、カルロス・ゴーン氏失脚後は日産自動車のガバナンス改善特別委員会の共同委員長に就任したほか、現在は関西電力会長として不祥事から立て直す陣頭指揮をとっている。愛知県出身。(写真:村田 和聡、以下同)

経団連会長を退かれた後、ガバナンスで大事な役割を果たす場面が増えていますね。

榊原定征・経団連前会長(以下、榊原氏):今、ガバナンスがライフワークの1つになっています。政府からの働きかけなどもありましたが、日産自動車のガバナンス改善特別委員会の共同委員長になりましたし、今は関西電力の取締役会長としてガバナンスの改善に取り組んでいます。

なぜガバナンスがライフワークになったのでしょうか。

榊原氏:2013年に(政府の成長戦略を議論する)産業競争力会議の民間議員になりました。議長は安倍晋三前首相です。私が経団連会長になる前のことです。このときから日本企業の競争力を高めるには企業統治改革が必要だと会議で議論していたのです。ですからガバナンスと私の関わりはかなり長くなりました。

日産と関電で何を見ましたか。

榊原氏:日産の場合はカルロス・ゴーンという経営者による不正がありました。ゴーンさんはトップの座に19年もいました。彼が主催する取締役会では、経営企画室長が議題を読み上げるとゴーンさんが「Any question?」「Any Comment?」と言うのですが、みんなノーコメントです。取締役会というのは本来、最高意思決定機関なのですから、色々な意見、議論があって質を高める場なのですが、ゴーンさんには誰も何も言えない。彼が思いのままに統治していたのです。取締役会は極めて短時間で形式的に終わっていました。ゴーンさんはいい経営もしていましたが、やはり切磋琢磨(せっさたくま)が全くないというのは不正が起こる温床になります。

 関電に関しては総合資源エネルギー調査会会長などをしていたこともあり、エネルギー問題に関心がありました。そういった中でご指名があり、ガバナンス改革をしなければという問題意識もあって、天命ではないですけど今年6月にお受けすることになりました。

日産のような「シャンシャン」の取締役会は日本企業に多い感じがあります。

榊原氏:以前の日本企業はみな、取締役会となると30人くらいずらりと人がいるのですが、全部社長が指名した人でした。社長が「なんか意見あるか」と言って、そこで意見する人はいませんよ。社長が指名した取締役は、何かおかしいと思っても言えません。実質的な議論がなされる場ではなかったのです。ですから「モノをきちんと言える」社外取締役の存在が非常に重要なのです。

 そのため日本でも2015年に上場企業に適用した企業統治指針で社外取締役を2人以上選任するよう求め、2018年の改訂版では、取締役の3分の1以上を社外取締役にするよう推奨しました。おかげでだいぶ日本企業も変わりつつあります。