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新型コロナウイルスの流行は産業構造の転換を促している。人が集まることが制約され、デジタルとリアルの役割分担が明確になる。この動きは、企業と人をつなぐ人材会社のビジネスモデルも大きく変える。エン・ジャパンの鈴木孝二社長に業界を取り巻く環境や求められる人材像などを聞いた。

鈴木孝二[すずき・たかつぐ]氏
エン・ジャパン社長

1971年、愛媛県生まれ。95年に同志社大学商学部を卒業し、日本ブレーンセンターに入社。2000年に同社のデジタルメディア事業が分社独立したエン・ジャパンの取締役を経て、08年から現職。

転職市場の足元の状況、今後の動向をどう見ますか。

鈴木孝二エン・ジャパン社長(以下、鈴木氏):求人広告の件数は5月に前年比40%減となったのを底に上向いてはいます。ただ、回復の動きは鈍く、緊急事態宣言が出ない前提で、当面は前年比30~35%減で推移しそうです。業種で見ると、飲食を含めた接客販売系が打撃を受け、裾野の広いサービス産業の落ち込みが激しい。製造業でも、大手の減産に伴うダメージが中小企業に及んでいます。堅調なのはITやEC、物流。医療や福祉、介護といった分野は、新型コロナ以前と変わらず、人手不足の状態が続いています。

「集まって働く」という前提が崩れ、産業構造が変化しています。

鈴木氏:元に戻ることはないでしょうね。企業は、構造の変化に対応することが重要と考えています。例えば、飲食業界はデジタル販売にシフトせざるを得ません。これはある種の業態転換で、接客業にもデジタル人材の需要が出ています。

人材会社の役割も変わるのでしょうか。

鈴木氏:求められる価値は間違いなく変化します。ただ、変化は常にあります。1960年代に出た求人情報誌によって市場が形成され、求職者は働く場を選べるようになりました。95年以降にはネットの普及で情報伝達が双方向になり、求職者と企業の情報の非対称性が薄まりました。その頃から労働人口が減少に転じました。

 求人倍率は直近こそコロナの影響で下がっていますが、いずれ高い水準に戻ります。人材会社は「立場の弱い求職者」に情報を提供することで価値を作っていた以前とは異なり、「立場の強い求職者」の期待に応えなくてはなりません。今後は産業の枠組みを超えた転職が増えるでしょう。成長していく産業でこれまでの経験をどう生かしてもらえるか、我々も新たな事業スタイルを模索しなくてはなりませんね。岐路ではありますが、大きな可能性を秘めています。

人の流動性は今後も高まりそうですか。

鈴木氏:二極化すると思います。企業は、変化に対応し、自らを変革できる人材を求めています。先が見通せない世の中になるほど、そういった人材の市場価値は高まります。一方で、従来の仕事の仕方から抜け出せない人材の需要はさらに低くなります。企業の体力は削られ、変化に適応できない人材を雇用できる余裕はなくなるからです。生産性向上や働き方改革といった取り組みは従来、一部の先進的な企業の話と見られていましたが、コロナによって、規模に関係なくどこもがやらざるを得なくなりました。企業の変化とともに、働いている人も変わらなければなりません。

社員の変化を促すため、企業はどのように対応すべきでしょうか。

鈴木氏:まず、仕事の任せ方を変えることだと思います。求める仕事が何か、必要な能力が何かを定義し、社員に明確なミッションを与える必要があります。そして、それらが連鎖するように業務全体を再設計すべきです。この可視化にデジタル技術が活用できます。業務の切り分けがすっきりすれば、何が足りないのかが分かる。そこでようやく、意味のある教育が分かってきます。「とにかく変わらないといけない」と社員に言っても響きません。まずは企業が、仕事のあり方と評価の物差しを変えなければなりません。