
新型コロナウイルスの感染拡大は日本企業の経営に大きな影を落としている。目先の窮地をいかに乗り切るかも重要だが、ウィズコロナ、アフターコロナにおいて成長できる会社を再構築していくのは経営者の責任だ。「失われた30年」を過ごしてきた日本の企業はどのように変化に臨めばいいのか。早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授に聞いた。

早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。1998年慶応大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院で博士号(Ph.D.)を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサー(助教授)。2013年に早稲田大学ビジネススクール准教授、2019年4月から現職。専門は経営戦略論および国際経営論。近著に『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)(写真:北山宏一)
コロナ・ショックは企業の経営にどういった問いかけをしていると考えますか。
入山章栄・早稲田大学ビジネススクール教授(以下、入山氏):経営の本質が変わることはありませんが、変化という意味でのポイントは2つあります。1つは、不確実性がこれまで以上に高まったこと。先が見えないほど環境が不透明で変化が激しい以上、イノベーション待ったなしで、企業は新たなことをして、自ら変化しないと生き残れません。これはもともと日本の企業の課題でしたが、コロナをきっかけに必要性がさらに増しました。現状維持はあり得ないので、新しい価値を生むために前に進むしかありません。これは単純に、コロナ前から求められていたことが加速したという話です。
もう1つは「経路依存性」のわなが解かれたこと。経路依存性とは、過去の決断の制約を受けるということですが、これが日本の失われた30年を生んだと私は考えています。企業や社会は様々な要素が合理的にかみ合っており、部分的に変えようとしても、他の仕組みが抵抗となってうまく変わらない。
例えば、ダイバーシティー経営をするには、まず新卒一括採用、終身雇用をやめないといけない。評価制度も見直す必要があります。多様な人間には多様な評価が必要で、同質人材を前提とする日本の5段階評価など使い物になりませんから。働き方も多様にする必要があり、それにはDXが欠かせない。すなわちダイバーシティを進めるのも、実は他の噛み合っていた仕組みまで変える必要があったのです。でも全部を変えるのは怖いし、抵抗勢力もいるので、結局、中途半端になり、うまくいきませんでした。
そういう意味では、今の状況は、全部を同時に変えられるビッグチャンスです。働き方改革は強制的で、リモートワークが定着すると時間給ベースは消え、成果主義、ジョブ型雇用になっていきます。デジタル化のおかげでいろんな人がつながり、副業も身近になりました。出会いが増える一方、会社へのエンゲージメントは落ちているので、今後はパラレルキャリアや副業が増え、転職が増えます。平成の失われた30年の原因だった経路依存性を克服するには千載一遇の超ウルトラビッグチャンスなのです。だから、これから数年は特に重要です。ここで全部を変えられる会社は新たな変化を生み出し、次の時代に前進できるでしょう。逆に変えられないと競争に負けて潰れるのではないでしょうか。
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