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新型コロナウイルスの感染拡大は世界に、そして日本に、どんなインパクトを与えたのか。日本リベラルの重鎮、寺島実郎氏に聞いた。同氏は「米中2極による新冷戦」という時代認識が間違っていることが明らかになったと指摘。日本は主体的に平和構築に努めるとともに、国境をまたぐリスクの解決にリーダーシップを発揮すべきだと説く。(聞き手 森 永輔)

新型コロナウイルスの感染拡大は世界に、そして日本に、どんなインパクトを与えたと見ていますか。

寺島:これまでも進行していて、これを機に一層明らかになったことが大きく3つあります。第1は、国際政治において、「米中2極」という時代認識が間違っていること。それゆえ、第2として、日本は平和と安全を確立する方法を主体的に考えるとともに、国境を越えるリスクについてリーダーシップを発揮していく必要があります。そして3つ目は、医療や防災など、日本は新たな産業の柱を築かなければならないことです。

寺島実郎(てらしま・じつろう)
一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長、寺島文庫代表理事。
1947年生まれ。1973年に早稲田大学大学院政治学研究科修士課程を修了し、三井物産に入社。同社で米国拠点を経験した後、06年に同社常務執行役員。09年に三井物産戦略研究所会長。同から多摩大学・学長。10年から日本総合研究所・理事長。14年から寺島文庫・代表理事。(写真:菊池くらげ)

 順にお話ししましょう。「国際社会において極を成す米国と中国が新冷戦に突入した」という時代認識が論壇において前提になっています。しかし、どちらの国も「極」を形成しているとは言えません。

脱中国、脱米国がアジアのあちこちに

 中国政府は香港に対し強圧的な姿勢を続けることで、国際社会における正当性(legitimacy)を失いました。典型例は香港国家安全維持法の制定と施行です。6月30日に施行するやいなや、8月10日には民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏ら10人を逮捕しました*。国際約束を反故(ほご)にして一国二制度を事実上破綻させたこと、そして民主派に弾圧を加えたことは、国際社会の失望を買いました。中国にシンパシーを抱いていた世界の華人・華僑社会でも反発が起こっています。

*:周氏は同11日に保釈された

 香港での失敗は、台湾において「脱中国」を加速させました。支持率が一時15%程度まで低迷していた蔡英文氏が今年1月の総統選で再選できたのは、中国政府が香港で演じた失政が追い風となったからです。新型コロナを封じ込めるのに成功した台湾を、中国がWHO(世界保健機関)から締め出しオブザーバーとしての参加にすら反対を唱えたことは、台湾の人々が中国に対して感じる違和感をさらに強めるものでした。

 米国も同様です。「冷戦に勝利し、世界は米国1極体制になった」と言われた時期もありましたが、ポスト冷戦のマネジメントに失敗しました。9.11同時多発テロのあと、アフガニスタンとイラクで戦争を開始。冷戦体制がふたをしていた民族や宗教という火に油を注ぎ、リーダーとして世界を制御する力を後退させました。

 さらに、今回の新型コロナへの対応で失敗。世界に冠たる超大国と思われていたのに、死者が18万人を超えています。いまだに格差と貧困と差別を克服できていないことが原因です。