
新型コロナウイルスの猛威は、日本が抱える様々な課題や欠陥を明らかにしました。世界の秩序が変わろうとする中、どうすれば日本を再興の道へと導けるのか。シリーズ「再興ニッポン」では、企業トップや識者による意見・提言を発信していきます。今回は2019年にノーベル経済学賞を共同受賞したアビジット・バナジー米マサチューセッツ工科大学(MIT)経済学部教授。経済成長や移民の影響などをめぐり、経済学の最新の知見と世間の見方の間に大きな分断が生じるなか、「まっとうな経済学」の見方を聞きました。
経済学の最新の結論として、「経済成長は(戦略で)コントロールできない」という知見を、最新の著書『絶望を希望に変える経済学』(日本経済新聞出版)で紹介していました。
アビジット・バナジー米マサチューセッツ工科大学(MIT)経済学部教授(以下バナジー氏):そうです。経済成長はコントロールできないのです。成長率を変化させる良い方法がないためです。経済が成長しない、という意味ではありません。
例えば、子供が身長1メートル70センチ、1メートル80センチへと成長していくことは、コントロールできませんね。そのスピードを人為的に変えることはできません。遺伝などで決まっているからです。経済成長にも同様のことが言えるのです。

米マサチューセッツ工科大学(MIT)経済学部教授
1961年生まれ。インドのコルカタ大学卒、ジャワハラール・ネルー大学修士課程修了。88年に米ハーバード大学で経済学の博士号(Ph.D.)を取得。2009年インフォシス賞受賞。11年、フォーリンポリシー誌が選ぶ世界の思想家100人に選ばれた。19年、マイケル・クレマー米ハーバード大学経済学部教授、配偶者でもあるエステル・デュフロ米MIT経済学部教授らとノーベル経済学賞を共同受賞。専門は開発経済学と経済理論。デュフロ教授との最新の共著として『絶望を希望にかえる経済学』(日本経済新聞出版)を出版。(写真:Bryce Vickmark)
日本は典型的な失敗例
成長スピードを(人為的に)変えようとして失敗した良い例が、1990年代前半の日本でしょう。成長が止まったとき、経済を成長させることが優先度の高い問題になりました。あらゆる施策が取り上げられましたが、結局はうまくいきませんでした。
経済成長のスピードは(人為的に)変えられない事実を、信じたくない国がやってしまうことです。政策で成長率に影響を与えようとしても、同時にたくさんのことはできませんね。たくさんのことをしたら、公的債務が爆発的に増えてしまう。それほど大変なことにもかかわらず、やっても成長率は変わらない。
安倍政権は成長戦略、アベノミクスを掲げてきました。
バナジー氏:我々経済学者が言いたいのは、もう成長戦略にこだわるのはやめましょうということです。成長戦略がうまくいく科学的根拠はないからです。
日本も今後、また成長するかもしれませんが、それは国がどのような成長戦略が取るかとはあまり関係がないのです。
というのも研究によれば、既に裕福な国の経済成長は、基本的に国家戦略には左右されないようなのです。
もちろん、足元の新型コロナウイルスの感染拡大は成長率に多大な影響を与えますし、それ以外の要素も影響します。その要素がいずれも、新型コロナがコントロールできないのと同様、コントロールできません。
これから成長率は大きく低下します。日本は輸出国ですから、世界の経済成長が減速すれば日本経済も減速するでしょう。それを日本が変えることはできません。
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