新型コロナウイルスの感染拡大による景気悪化に企業はどう立ち向かうのか。単純なコスト削減だけでは限界がある。危機を乗り越える最大の力は、やはり人。社員を個人事業主のようにする独自の経営を実行する半導体製造装置大手、ディスコの関家一馬社長兼CEO(最高経営責任者)に危機に強い経営の根底を聞いた。

関家一馬(せきや・かずま)氏
ディスコ社長兼CEO。1966年生まれ。88年慶応義塾大学理工学部卒。米国留学を経て89年にディスコ入社。92年、技術本部で主力装置の小型化などのプロジェクトを率いる。95年取締役、2002年常務、09年社長兼COO(最高執行責任者)、17年6月から現職。創業者の関家三男氏は祖父 (写真:竹居俊晴)

コロナ禍で2020年4~6月期の日本企業は前年同期比で大幅な減収減益です。その中でディスコは売上高は同8.8%増、営業利益は30.3%増と好調です。在宅勤務の拡大でパソコンが売れ、データセンターの設備投資が増大するなど半導体需要が回復したためでしょうか。

関家一馬・ディスコ社長(以下、関家氏):18年、19年と半導体市場が停滞を続け、下方に向かったサイクルが上向く局面だったこともあるでしょう。それにリモートワーク増大による需要も上乗せされましたが、一巡するとなくなると思っています。やはり世界景気がいいことが大事で、それによってスマホも買い替えが起きます。全体景気が良くなければいずれ萎んでいくものです。

 景気の急激な悪化については厳しい思い出があります。00年のIT(情報技術)バブルが崩壊した後、半導体需要が急収縮し、当社は02年3月期に売上高が前期の3分の1近くに落ちて赤字に転落しました。そのときから、市場の動きに出荷を合わせる(生産の)ように柔軟性を付け、一方で営業利益率を引き上げて財務的なバッファーを持つ経営に力を入れてきました。そのおかげで、08年秋のリーマン・ショックの際には、業界の多くが赤字に転落する中、何とか黒字を保つことができました。

考えるのは企業を強くすることだけ

03年から独自の社内通貨「Will(ウィル)」を使った経営を展開しています(注参照)。社員一人ひとりが、自身のあらゆる仕事に収支を意識し、自営業者のように動くことを目指しています。その影響はどうでしょう。

関家氏:ウィルはディスコの活動のあらゆる分野に関わってきます。まず逆風のときの収支について改めてお話しすると、当社では経費を自動的に抑える仕組みを作っています。売上高経常利益率の水準によって、どこまで経費を使っていいかといった管理指針を決めているのです。

 そこで大事なのが、社員それぞれが(日常の企業活動を)自分のこととして考えるかどうかです。業績が悪化すれば、多くの場合個人のウィル収入が減り、個人収支が悪くなる。それは賞与などにも連動するようになっていますから、企業としての業績を常に意識することになる。すると「市場環境の良かったときと同じように経費を使っていたら、会社も自分も大変なことになる」と思うはずです。経費の管理指針は、個人の意識が、会社の業務すべてを「自分ごと」と捉えるようになるという前提の上にあるのです。

(編集部注)Willとは:ウィルは、ディスコが設けた社内通貨。社内のあらゆる仕事にウィルのやり取りを付随させる。例えば、営業員が外部に製品を販売すると、その売価に一定割合を上乗せするなどしてウィルを受け取る。一方、営業員は販売のために物流や社内システムを使うと、その担当部署や社員に経費としてウィルを支払う。加えて自分の人件費も費用として計上する。会議室を使えば、使用料を払い、他の社員に応援を頼むときには、その対価を払う。

 ディスコは2003年に部署単位でウィルをやり取りする「部門ウィル」を導入。11年から個人単位でやり取りする「個人ウィル」に移行した。例えば、業務も部門長が部署内で毎朝、一部をオークションにかけて落札した人が仕事を受ける形を取っていたりする。

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